大山誠一郎『密室蒐集家』あらすじとネタバレ感想

大山誠一郎さんの「密室蒐集家」のあらすじと感想をまとめました。

今回は短編全てが「密室」縛りです。最初から密室と分かっていながらも、そこに隠されたトリックを見破るのは難しいという、非常に読み応えのある1冊でした。

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「密室蒐集家」書籍概要

目撃された殺人と消えた犯人、そして目の前を落下する女、鍵を飲み込んだ被害者に雪の足跡…いつの間にか現れた「彼」の前に開かない「扉」はない。「BOOK」データベースより

  • 密室蒐集家(2012年10月/原書房ミステリー・リーグ)
  • 密室蒐集家(2015年11月/文春文庫)
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柳の園 1937年

高等女学校の4年生・鮎田千鶴は忘れ物の回収のため、日が暮れて閉め切られた学校へと忍び込んだ。校舎側の柳並木で無事に目的を達成し帰ろうとした時、音楽室の灯りが点いていることに気が付いた。そっと近づいてカーテンの隙間越しに室内を覗くと、音楽教師の君塚がピアノを弾いているのが見えた。防音が施されているためどんな曲なのかは分からないが、そのうち君塚はピアノを止め、教室の扉へと歩いていく。誰かが来たらしいが、カーテンで視界が遮られ千鶴からは見ることができなかった。次の瞬間、破裂音とともに君塚がぐらりと揺れた。再びぐらりと揺れ、君塚はうつ伏せに床に崩れ落ちた。

校舎の扉や窓は施錠されている。急いで宿直室へと向かった千鶴は窓ガラスを叩き、顔を出した宿直の英語教師・橋爪に事情を話し、2人で音楽室へと向かった。音楽室側の窓ガラスが壊され窓が開けられていたものの、音楽室の扉は施錠されていた。犯人はまだ中にいるかもしれないため、小使い室で鍵を借り、小使いの堂島と3人で音楽室へ入った。音楽室は倒れている君塚以外誰もいなかった。念のため橋爪が見張りに残り、堂島と千鶴は警察へ通報するため電話のある校長室へと行った。

君塚は銃で2発撃たれて即死状態で、左手の腕時計が消えていた。鮎子の証言から犯行時刻、校内にいた橋爪、堂島には犯行は不可能だった。犯人は君塚の顔見知りで、君塚に音楽室の扉を開けさせた後射殺し、何らかの手段を使って音楽室を施錠、逃亡したものと思われた。密室の謎に頭を悩ませていた時、密室蒐集家を名乗る男が現れ、鮎子から話を聞き終えるなり、真相が分かったと言った。

 

全編を通して正体不明の「密室蒐集家」が探偵役となっています。歳は30代頃、密室が現れるとどこからともなく現れ、真相を解き明かした後気が付くといなくなっています。

君塚の左上に時計がはめられていなかったことから犯行時の状況を推理し、真犯人にいきつきました。

少年と少女の密室 1953年

警察官の柏木が制服姿の鬼頭真澄と篠山薫に出会ったのは、2人が愚連隊に因縁を付けられていたシーンに出くわしたからだった。鬼頭真澄だと名乗った少年は、セーラー服の女子生徒をかばうようにして愚連隊と対峙していた。柏木が間に入ってその場をおさめた後、タクシーで2人を送った。

その後柏木は、ある空き家で闇煙草の取引が行われるという情報を掴み、同僚たちとともに見張りについた。空き家は篠山という家と2軒で1つのブロックを作っており、四方から出入りを監視することになった。午後2時、柏木が愚連隊から助けた少女が篠山家へと入っていった。3時25分、少年が篠山家へと入っていった。午後4時、闇煙草の売人が空き家へと入っていく合図で柏木達は動き出した。逃げた売人を追って篠山家へと入った柏木らは、売人を捕まえた後ふと違和感を覚え、この騒ぎにも関わらず誰も出てこない篠山家へと入った。少年が少女を抱き締め絶命していた。2人の胸は血で赤黒く染まっており、少年の胸にはナイフが突き刺さっていた。

衆人環視の中での殺人、いわば密室殺人だった。亡くなった2人は一緒の霊安室に寝かされた。病院に訪れた両家の遺族の話から、鬼頭真澄の父親は鬼頭組の組長であること、篠山薫が3時には生きており叔母と電話をしていたこと、2人がこの日駆け落ちをしようとしていたことなどが分かる。犯行時間帯と思われる時刻、関係者たちにはアリバイがあり、犯人は忽然と会わられて2人を殺し、また忽然と消えていったとしか思えない状況だった。柏木のもとに密室蒐集家がやってきた。殺人事件の担当ではない柏木にまず話を聞きたいといい、聞き終わると同時に真相がわかったと告げる。

 

2つの密室トリックが使われていました。とはいえ犯人が意図して作ったものではなく、偶然が重なって密室が作られたように見えていました。

一つはすぐにわかりました。

死者はなぜ落ちる 1965年

伊部優子の部屋に昔の恋人・根戸が突然訪ねてきた。優子が医者と結婚することを知り、よりを戻そうと押しかけてきたのだ。よりを戻さなければ大声で外に向かって叫ぶと脅しながら根戸が窓をあけた時、すぐ外を女が落ちていった。一瞬のことだったが、目をかっと見開いているのが見えた。下へと降りていった優子は、誰だという根津の問いかけにホステスの麻美だと答えると、警察に通報するため根津を帰らせた。麻美は優子の部屋の真上の住人だった。

警察によると110番通報は午後9時38分。その数分前に落下を目撃したという優子の話から、死亡したのは9時半頃と見られる。事故か自殺かと思われたものの、麻美の背中には刺し傷があり、そちらが死因と思われた。麻美の部屋にはドアの鍵とチェーンで施錠されており、中には誰もいなかった。また麻美の死亡時刻は、午後5時半から6時半の間と見られた。つまり犯人は、麻美を刺殺したあと3時間ほど待ってから遺体を転落させ、施錠された部屋から消えたということになる。第一発見者の優子が疑われたが、彼女の口から根津の存在が浮かび、根津の証言から2人が麻美を落下させられないことが判明した。

麻美の勤め先から、彼女には松下というパトロンのような客がいたことが分かり、2人の間に何らかのトラブルが起きたのではと警察は考えるものの密室の謎は解けない。そこに密室蒐集家が現れた。捜査協力という形で警察とともに麻美の部屋へとやってきた密室蒐集家は、「目をかっと見開いて」と証言したことを根津に確認したあと、麻美に向かって犯人はあなただと言った。

 

意図して作られた密室ではありませんでした。むしろ密室だったことで麻美は犯人として追い詰められる結果になりました。火事場の馬鹿力という言葉がありますが、まさにそんな感じの事件でした。

理由ありの密室 1985年

午前10時半、岸本徹夫を殺したという匿名の電話がかかってきた。警察官が確認に向かうとドアに鍵が掛っており、窓を割って入った先で左胸を打たれた岸本の遺体を発見した。死亡す低時刻は前日の午後11時~翌午前2時頃。メーカーでしか複製が出来ない鍵のうち1つは管理会社が保管しており、もう1つは岸本の胃の中から出てきた。岸本は恐喝で大金を手に入れており、恐喝の証拠となる品をおさめたと思われる金庫は、開けられ空になっていた。おそらく犯人は岸本を銃で脅し金庫を開けさせたのち、鍵を飲み込ませ射殺したものと思われる。一見密室殺人かと思われたが、ワープロの紙送り機能を使って窓の鍵を閉めたというトリックはあっさりと警察に見破られた。

容疑者は岸本自身から送られてきた手紙により3人に絞られた。命の危険も考えていた岸本は、自分に何かあった時のために手紙を何者かに託していたらしい。

1人目は経歴詐称の都議会議員の高木津希、午後9時に都議会を出て自宅に戻ったのちはずっと一人でいた。2人目は脱税の証拠を掴まれた城田寛子、午後11時頃まで会社幹部らと会食、タクシーの運転手の証言により11時40分に自宅に着いたことが確認された。3人目は器具の管理不徹底による院内感染の証拠を掴まれた柴山俊朗、午後11時まで手術で執刀した後、タクシー運転士の証言で、0時半に自宅に戻ったことが確認されている。3人ともが全くもしくは部分的にしかアリバイがなく、1人に絞り込めない状態だった。帰宅途中にあるレストランに寄った2人の捜査員のところへ、密室蒐集家が現れた。

 

密室蒐集家は簡単に見破られた密室トリックは犯人が意図したもので、警察に密室を解かせることによって本当に隠したかったことを気づかせないようにしたと推理しました。

犯人は密室を作ることによってそちらに警察の注目を集め、あることへと目を向けさせないように仕向けていました。

佳也子の屋根に雪ふりつむ 2001年

恋人に捨てられ失意の佳也子は、元旦の夕暮れ、当てもなくさまよってたどり着いた林の中で睡眠薬を大量に飲んで自殺を図った。目を覚ますと、香坂典子の自宅兼病院にいた。医者の典子は、佳也子が眠りっぱなしだったこと、今日は3日で、しばらく安静にしているように佳也子に告げ、見張りのつもりなのか病室で時を過ごした。さようならと電話をかけたあと音信不通にしていた友人の秋穂に電話を掛けると、三日間心配しっぱなしだったと怒られた。

夕飯は雪が降り始めるなか買い物へ出かけた典子が、クリームシチューを作ってくれた。お腹がいっぱいになると眠くなりはじめ、体力を回復させるためにゆっくり休みなさいという典子に促されるように佳也子は眠りについた。

翌朝、チャイムの音で目が覚めた。警察だった。典子が殺されているという匿名の通報があったと言う。警察官と一緒に家内を調べていくと、キッチンで左胸を刺されて絶命した典子がいた。

家の周りは雪が降り積もっており、買い物へ出かけた典子が往復する足跡しかついていなかった。家の中には典子と佳也子しかいなかった。訳が分からないうちに佳也子は、重要参考人として警察に連れていかれた。その途中、昨日伯父が亡くなったことを典子に知らせに来たという典子の妹に会う。東京に帰れなくなったことを秋穂に連絡すると、彼女はすぐに駆け付けるという。

佳也子の取り調べ中、密室蒐集家が警察に現れた。密室蒐集家は佳也子は犯人ではなく、密室殺人だという。佳也子から自殺を図って目覚めてからの話を聞いた密室蒐集家は、やってきた秋穂に対し、あなたが犯人だと言った。

 

密室蒐集家は、典子が伯父を殺すために佳也子をつかってアリバイを作ったことを証明してみせました。そして佳也子の話から、秋穂がその共犯者であることも指摘します。秋穂はある理由から、佳也子に典子殺しの濡れ衣を着せることを思いついて実行したのでした。

 

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どの時代でも密室蒐集家の見た目は変わりません。現実世界とは別の存在といった位置づけでしょうが、それが無理なく物語の中に入り込んできて謎を解くといつのまにかいなくなっているという設定にマッチしていました。

1話目に出てきた鮎子が、4話目にもレストランのオーナーとして登場し密室蒐集家に再会するというちょっとしたお楽しみもある短編集でした。