沢村浩輔『時喰監獄』あらすじとネタバレ感想

沢村浩輔さんの「時喰監獄」のあらすじと感想をまとめました。

”90ページで世界はひっくり返る” ”前代未聞のプリズン・ミステリー”とあったのでどんな壮大な仕掛けのミステリーだろうと期待していたら……異次元なSFものでした。

確かに世界はひっくり返りました。予想外の方向に。

「時喰監獄」書籍概要

第六十二番監獄。明治の初めに北海道の奥地に建てられたその監獄は、収監されれば二度と出られないという噂から、“黒氷室”の異名で恐れられていた。“黒氷室”行きとなった青年・北浦は、奇妙な囚人たちに出会う。三度目の脱獄を目論む不死身の男・赤柿、帝都の私立探偵だという浮世離れした美青年・御鷹、そして閉ざされたはずの監獄に、ある日突然現れた記憶喪失の男。こいつは誰で、どこからやってきたのか?謎を探るうち、北浦は監獄の“本当の目的”を知る!思惑と「時間」の絡み合うプリズン・ミステリー!「BOOK」データベースより

  • 時喰監獄 (2019年7月/KADOKAWA)

 

明治維新後まもなく、北海道の原生林の中に建つレンガ造りの監獄・第六十二番監獄、通称「黒氷室」は極寒地獄の中にあった。吹きすさぶ暴風や大雪、原生林に住む人を食う狼。生きて帰れるものはいないと噂される黒氷室で、脱獄を目論む人間がいた。赤柿雷太という囚人だった。

看守の目をかいくぐり監獄を取り囲む塀までやってきたところで、赤柿は見知らぬ男と出会う。同じ脱獄犯かと思われた男は赤柿に向かい、赤柿は今夢を見ているのだという。目が覚めれば独房のベッドの上だと。訳が分からないことを言い合っているうちに、監獄のトップ・典獄の丹澤が追い付いてきた。丹澤に胸を撃ち抜かれた赤柿だったが何故か蘇生し、塀から落ちていくのを助けようとした「おおくわ」と名乗った謎の男は転落の衝撃によるものか記憶喪失に陥った。

登場人物

  • 北浦:囚人。人の信頼を得るのが上手いらしい。
  • 御鷹:帝都で私立探偵事務所を開いている。ある依頼により囚人として黒氷室に潜り込んできた。
  • 赤柿:2度の脱獄を企てるものの失敗に終わる。が、胸を撃たれて蘇生し、拷問等で殺されることもなく囚人生活を送っている。
  • 丹澤:監獄のトップの典獄。赤柿を蘇生させる。
  • 神崎:監獄医
  • 越野:神崎の助手。正体は警察の密偵
  • 芳田:看守長
  • 水原:看守。正体は内務省の潜入捜査官。丹澤の不正の証拠を掴もうとしている。
  • 謎の男:赤柿に対しおおくわと名乗る。記憶を失い神崎の監視下にある。

あらすじ

赤柿の脱獄失敗の約3か月後、途中で脱走を図った1人が護送官に殺され、残り3人の囚人が馬車に乗せられ黒氷室を目指していた。そのうちの1人が北浦、もう1人が御鷹だった。これから地獄へ送られるというのに、北浦の目には御鷹は飄々とした様子に映った。

黒氷室は広大な敷地の原生林を切り開いて作られた監獄で、4つの獄舎に400人強の囚人が収監されていた。規律の厳しい囚人生活の中、北浦は胸に銃弾の跡の残る赤柿に声を掛けられ、警戒しつつも次第に言葉を交わすようになる。赤柿は「大桑」という人間が黒氷室のどこかに監禁されているはずなので、見つけ出してほしいと北浦に頼む。黒氷室の劣悪な状況を世間に知らしめるため脱獄を目論んでいた赤柿だったが、明らかに囚人ではない「大桑」がいずれ赤柿の代わりに目的を達成してくれると信じ、脱獄をやめていた。

一方、ある依頼を遂行するため黒氷室にきた御鷹は、夜の独房内で22世紀から届いた自立型のタイムマシンを組み立てていた。AIにより探偵が必要なくなった22世紀に生まれた御鷹は、ホームズなどの名探偵に憧れて明治時代に時空を超えてやってくると、私立探偵に転職してそれなりに名を馳せる有名人になっていた。警察の密偵である越野とも顔見知りで監獄内で顔を合わせたものの、今回は目的が異なるためお互いに干渉(邪魔)しないことになった。

御鷹によると、同じ空間内に3人以上の未来人が存在するとタイムパラドックスが起きるらしい。丹澤と神崎と御鷹、御鷹が探している「ある方」、黒氷室には4人の未来人が存在していた。

ある日、北浦は典獄の丹澤に呼ばれ、記憶喪失の男の記憶を取り戻すよう命令を受ける。赤柿や御鷹といった一癖も二癖もある人物たちが北浦には胸襟を開いている。その能力に注目した丹澤は、男の記憶が戻った暁には刑期の短縮を餌に北浦に引き受けさせる。

二度ほど面会をしたものの、男の記憶は戻ってこない。北浦はこの記憶喪失の男が、赤柿の探している大桑だと考え、赤柿と大桑を引き合わせることを考えた。赤柿の顔を見れば男も記憶を取り戻すかもしれない。だがその計画は盗聴器(らしきもの)を仕掛けていた丹澤には筒抜けだった。

丹澤を出し抜こうとした北浦は処分されかかったが、危ういところで監獄近くの岳鷹山が噴火した。丹澤によると3か月後だったはずの噴火が、タイムパラドックスによって歴史が変わったらしい。北浦には何を言っているのか分からなかったが、噴火によって流れ込んだ溶岩が監獄をまるごと消してしまうことだけは理解した。避難しろという北浦の訴えは聞き入れられず、北浦は懲罰房に放り込まれた。

北浦が懲罰房行きになったことを知った御鷹と赤柿は、協力して自らも懲罰房行きとなる。懲罰房の下には、丹澤によって迷路のように通路が張り巡らされていた。時空を股にかけた密貿易組織の一員の丹澤は、監獄を隠れ蓑にして様々な物を密輸していた。そして用済みになった監獄は、地下の通路から流れ込み溢れ出した溶岩によって証拠ごと囚人や看守もろとも消される計画だった。神崎は、丹澤の見張り役だった。

懲罰房を抜け、赤柿と再会した大桑は記憶を取り戻した。彼は、赤柿の脱獄を止めるために未来からやってきた人物であり、御鷹が依頼を受けて救出する予定の人間でもあった。赤柿と北浦が全員を運動場に避難させる一方、御鷹と大桑は丹澤が密輸に使っていた転送装置を目指す。御鷹は監獄を安全な場所へと転送させるよう命令を出した。

まとめ

大桑なる人物は、ある財閥の3代目で初代の残した遺言を遂行するため明治時代にやってきて奇禍に遭いました。御鷹は22世紀の7代目の元秘書であり、7代目の依頼を受けて先祖である3代目を救いにきたのでした。ややこしいです。

御鷹は帝都での私立探偵業務を気に入っており、この時代に骨を埋めるつもりのようです。この時代の歴史を知っており、登場したのは転送装置のみですが未来の道具を使えるとなれば、探偵に魅了されて転職したとしても大分生きやすい気がします。いうなれば大人バージョンの一人ドラえもんといったところでしょうか。

赤柿が胸を撃たれて蘇生したのは、丹澤による22世紀の医療技術とのこと。なんでもありですね。

赤柿と意気投合した北浦は、黒氷室消滅後、赤柿と組んで事業を起こすような雰囲気を匂わせていました。

 

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暴力的な看守、極寒の地、脱獄、囚人として潜り込んだ探偵、警察や内閣府の密偵……と凄惨極まりないバイオレンスな展開が待ち受けているかと覚悟していましたが、拍子抜けなくらい普通でした。むしろ率先して暴力を持ち込むかと思われた看守長あたりはいい人になっています。

プリズン・ミステリーではないですね。ライトなSFアクションものといった所でしょうか。