沢村浩輔『週末探偵』あらすじとネタバレ感想

沢村浩輔さんの「週末探偵」のあらすじと感想をまとめました。

事件性のないもの、緊急性のないもの、依頼内容はえり好みする代わりに依頼料は取らないという、普段は会社員、週末だけ探偵事務所を開けるという滝川と湯野原ののんびりとしたコンビが、依頼人が持ってくる他愛のない謎を解き明かす日常系ミステリー。と思いきや、いつの間にかある殺人事件に巻き込まれてしまうという愛嬌のある一冊でした。

読みやすくのほほんとした謎も多いので、ミステリー初心者にもお勧めの一冊です。足跡のない雪だるまの謎から殺人死体遺棄まで落差が激しいですが、全体的にのんびり・ほのぼのと話は進みます。

「週末探偵」書籍概要

男ふたりの探偵事務所開業するのは週末だけ。10万部突破『夜の床屋』の著者による最新作。「BOOK」データベースより

  • 週末探偵(2016年11月/文藝春秋)
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最初の事件

勤めていた会社が倒産し転職に合わせて引っ越しをした滝川は、ようやく仕事にも慣れ、のんびりとした週末を過ごすため自転車で少し遠いラーメン屋に繰り出した。その帰り道、住宅の敷地内に現れた放置された電車車輛。ミステリー好きの友人・湯野原に写真を撮って送ると、「記念すべき1人目の依頼人だ」と返信があった。

行きつけの喫茶店で話をしていたところ、マスターが電車の持ち主を知っていると言う。小学校時代の友人だという。湯野原は探偵事務所として借りたいので、持ち主に連絡を取ってほしいと頼む。やり手のビジネスマン・高塚は、父親の所有だったという払い下げの電車車輛にまつわる謎を解いてくれたら貸すという約束をした。金に糸目をつけず、購入した物はすべて自慢せずにはいられない父だったのに、この電車の存在は亡くなってから初めて知ったのだという。なぜ存在を隠していたのかが知りたいと言い、高塚は子どもの頃の話を始めた。

東京で不登校になった高塚少年は、母方のふるさと・郷咲にやってきた。転校先の学校でもなじめず愛犬のジャッキーと日が暮れるまでルートを決めずあちこち散歩するのが楽しみで、離れて暮らす父とは電話でその日の出来事などを話していた。そのうち高塚には、須藤(マスター)という友人ができた。だがある日、突然須藤は高塚から離れていった。理由も分からないまま東京に戻り、その後の付き合いも特になく今に至る。

なぜ父親は電車の存在を誰にも言わなかったのか推理してほしいという高塚に対し、湯野原は電車車輛は息子を喜ばすために父親が用意したサプライズだったのだろうと答える。なぜサプライズがそのまま隠されたままだったのか、それは須藤と高塚の関係に起因していた。

 

お金持ちのプレゼントはスケールが違います。お父さんは散歩中に見つけた電車の話題が息子の口から出ることを期待して待っていたのですが、ある事情により高塚少年は電車の存在を知ることなく郷咲から去ってしまいました。

何はともあれ2人は無事に格安の賃貸料で探偵事務所を手に入れました。

どうやら探偵役は湯野原で、滝川は推理はしますがよく外すというパターンのようです。

桜水の謎

滝川と湯野原の大学時代の友人・理沙が持ち込んだ謎は、突然連絡が取れなくなった中学時代の親友・悠美と見た「川を流れる桜の花びら」の謎だった。

インフルエンザで学校を休んだ悠美に届け物をした帰り道、理沙は悠美の家のそばを通る水路に桜の花びらが流れてきたのを目撃した。けれどこの川の上流に桜の木があった覚えはない。不思議に思った理沙は登校してきた悠美に話し、放課後二人で水路を見に出かけた。そしてふたたび桜の花びらが流れてきたのを見た。だがやはり悠美も桜の木に心当たりはないと不思議がる。

10mほどの川幅の真ん中あたりを花びらは流れていた。つまり誰かが橋の上から桜の花を撒いたと考えられる。当時、中学生2人は桜の木を求めて上流に向かい滝にぶつかった。滝に落ちた花びらは水中に沈んでしまうので理沙が見たような花びらの塊にはならないという。

普通だと誰かを楽しませるために花を撒いたのだろう。だが湯野原は、川下に老人ホームがあることを聞き、不穏な推理をした。川下にいる誰かに桜が元気なことを知らせるために花びらを撒いた。つまり桜の木はすでに枯れるか何かで無くなっている。なぜ無くなっているかというと……。

 

ほったらかしでも毎年花を咲かせる桜を枯らしてしまった理由を考え、理沙を帰したあと滝川と湯野原は桜の木を探しにでかけます。切り株だけになった桜の木を見つけた二人は、警察への匿名の通報をどちらが行うのか、あっちむいてホイで真剣に戦いあったようです。

他愛のない謎を求めていた2人ですが、事務所開設初となる依頼はいきなり物騒な結果となりました。

月と帽子とひったくり

行きつけの喫茶店のマスター・須藤の姪でアルバイトの加奈がひったくりに遭った。だが金銭的な被害はなく、犯人は加奈につば広の女性物の帽子をかぶせて逃げていった。帽子のせいで犯人の姿は見えなかった。平和な町内にひったくりが起きたのはけしからんと町内会長の長谷川が、滝川と湯野原に依頼するため喫茶店へとやってきた。実は長谷川にも警察にもひったくり常習犯の心当りがあるという。だが当のひったくり犯は、加奈が被害に遭っていた時刻、飲み屋にいたことが証明された。ひったくり犯は必ずひったくりをした日には飲み屋に行くらしい。だがその日、近隣地域も含め加奈以外の被害者はいなかったという。

加奈に教えられた現場へと向かった2人は、被害に遭った場所が喫茶店の常連・森永の家の前だと気づく。森永は若い女の子と会っていたのが奥さんにバレ、お詫びの長期旅行中で留守だった。犯人役と加奈役に分かれて現場検証をしたあと、湯野原は真相が分かったと言った。

 

警察に届けなかっただけで、ひったくり被害者はもう一人いました。加奈を襲った人物がなぜ加奈の抵抗にあいあっさり帽子をかぶせただけで逃げていったのか、その帽子はどこで手に入れたのか(悪目立ちする大きさの帽子をどうやって目立たせることなく運んだのか)、そのあたりをきっかけに犯人の目星をつけていきました。

凝っていて面白かったです。

探偵たちの雪遊び

大雪が降った日、小学生の貴也はびくびくと両親の顔色をうかがいながらも公園へ出かけた。去年はクラスメイトの妨害にあってできなかった雪だるまづくりをするためだった。だが公園には先客がいた。大人2人が楽しそうに雪玉を転がしている。貴也に気づいた2人は、滝川、湯野原と名乗り、貴也に雪だるまの顔を作ってほしいと頼む。完成間近の頃、2人に呼ばれて車がやってきた。町内会長の長谷川だった。不機嫌そうながらも長谷川は、雪だるまを車に積んで公園沿いに走るとすぐに止まる。そして2人は貴也が見守る中、細心の注意を払いながら道路の真ん中に雪だるまを置いた。

新雪の積もった道の真ん中、運んだ足跡もないのに突如現れた雪だるまの謎の完成だった。ターゲットはアルバイト先の喫茶店へと出勤途中の加奈。加奈は2人の挑戦を受け、公園内で雪だるまを作ったあとや車のタイヤ痕などから見事に謎を解き明かした。

最後にみんなで記念撮影をして解散。貴也は写真の中の自分がとても満足そうな表情を浮かべているのに驚いた。2人は貴也に週末探偵事務所に遊びにおいでと誘って名刺をくれ、父親から決められた門限が迫っているのを気にしながら貴也は家へと戻っていった。

 

周囲に色々を気を使って縮こまっている小学生・貴也くん目線の話でした。貴也が家へと戻っていった後に視点は3人称に変わり、なぜ2人が貴也や加奈を巻き込んで雪だるまを作って遊んだのかという謎が明らかにされました。長谷川さん、町内会長をするだけあって人情味があっていい人です。

夏の蝉

週末だけの探偵事務所のホームページが完成して1か月、依頼人もおらず暇を持て余していたところに喫茶店の常連客の一人・佐々木がやってきた。高校時代の謎を解いてほしいという。

経済的に不自由なかった佐々木家だったが、父親が倒れたことで家計が苦しくなり、佐々木はアルバイトを思いついた。だが家から近い商店街はもれなくそっけなく、ある人の口添えで朝の新聞配達の職を手に入れた。順調に仕事をこなしていたある日、新聞配達用に括りつけられたビニール製のポストに新聞を入れた佐々木は、ポストの底に何かが入っているのに気が付いた。蝉の死骸だった。翌日も、そのまた翌日も気が付いた佐々木が捨てるものの、必ず次の配達時には蝉の死骸が入れられている。蝉が入れられているポストは佐々木の友人の家で、友人の母親は新聞配達の仕事を紹介してくれた人物だった。

友人によると母親は大の蝉嫌いで、無邪気な正義感でご近所トラブルを起こす常連らしい。おそらく母親に対する嫌がらせだろうと友人は推測する。最近トラブルを起こしたのは2人いるが、決め手に欠ける。蝉の死骸は0時~4時半までの間に入れられていると判明した友人は、見張りをして犯人と話をするという。翌日、友人は犯人と交渉したと言い実際に蝉の死骸がポストに入れられることはなくなったが、犯人がどちらだったのか頑として明かさなかった。いったいどちらが犯人だったのだろうか。

湯野原は、友人の母親に対するいやがらせという前提が違っていると言った。

 

結果的に友人の母に対するいやがらせにはなっているのですが、ターゲットは母親ではありませんでした。意外な真相を聞き、佐々木は友人が犯人の名前を明かさなかった理由を悟ります。

ちょっと変わった依頼人

スーツケースを引きながら羽子と名乗る女性が探偵事務所にやってきた。ホームページを見てやってきたのだと言う。羽子は幼い頃に経験した不思議な話を語り始めた。

羽子の両親はかけおちして北海道から東京へとやってきて羽子が生まれた。両方の実家とは音信普通だったものの、連絡を絶っていたのはきつい性格だった母親の一存だったらしい。若くして母が亡くなると母方の祖父母から連絡があり、羽子は父に連れられて祖父母の家がある北海道へと旅行がてら向かうことになった。午後4時に訪問の約束をして少し早く到着した。祖父母の家は留守だった。家の中で倒れているかもしれないと、母が持っていた合鍵を使って中に入ったものの全くの無人で異常は見つからなかった。だが午後4時、いきなり目覚まし時計が鳴り始めた。

無事に連絡がとれた祖父母に聞くと、祖父が入院ししばらくそちらに付きっ切りだったらしい。父に連絡をしようにも連絡先が見つからず結果行き違いになったとのこと。だが目覚ましが必要ない生活をしている祖父母には、午後4時に鳴った理由が分からないという。

幽霊の仕業じゃないかなどと適当なことを言う不機嫌丸出しな湯野原に代わり、滝川が自分の推理を披露した。それは留守になった祖父母宅に泥棒がいたという説だった。しばらく祖父母が不在にするのを知った泥棒が、一時的な滞在場所とした。泥棒稼業は夜のため、午後4時頃に目覚めるのが具合がよい。羽子と父が家に入った時、泥棒は息を潜めて押し入れに隠れていたのではないか。

つじつまの合う推理に感心する羽子に対し、湯野原はここにやってきた本当の用事はなんなのか問う。湯野原によると、ごく一般的なキーワードで検索して自分たちのホームページにたどり着くのは不可能だという。つまり羽子はホームページ以外の方法で事務所の存在を知ったのだ。

おそらく今まで自分たちが手掛けた事件の関係者だと言う湯野原に対し、羽子は正体を明らかにした。そして2人に対し、人命の掛かったゲームを仕掛けてきた。

 

このまま次の「週末探偵事務所へ、ようこそ!」へと話は続きます。今回が問題編。次回が救出編です。

週末探偵事務所へ、ようこそ!

自分が話して聞かせたストーリーの中に人質の居場所を見つけるヒントがあるといい、羽子は悠々と帰っていった。残された2人は警察に通報し、自らも探偵事務所に籠って人質の居場所を見つけるべく、徹夜覚悟で羽子の残していった話を検討する。

警察もある事件について羽子を追っていたため、担当刑事に連絡を取った滝川は、羽子の話がどこまで本当なのか聞き出した。結果、ほとんどが信用に値しないと分かった。最大のヒントは午後4時に鳴ったという目覚まし時計だろうと考えた2人は、そこから人質の居場所を推測する。判明したのは思いもかけない場所だった。

 

無事に事件は解決しました。犯人と直接対決という緊迫するシーンで体重80kg VS 2人合わせて130kg、50kgのアドバンテージがあると強気で臨んで一瞬でふっとばされ、運動エネルギーの法則を忘れていたと反省する滝川の余裕は何なんでしょうか、笑いました。ついでに人質の無事を確認し、水分補給のために麦茶、ビール、白ワインを用意して刑事に呆れられた湯野原の慌てぶりにも、ほのぼのとしました。

2人が事件に巻き込まれたことを知り、わざわざ励ましにやってくる長谷川町内会長はやっぱりいい人でした。

 

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これ一冊で終わりでしょうか。なかなか良いコンビで扱う謎も面白かったので、続編が出るならぜひ読みたいです。