沢村浩輔『夜の床屋』あらすじとネタバレ感想

沢村浩輔さんの「夜の床屋」のあらすじと感想をまとめました。「インディアン・サマー騒動記」として出版されていたものが改題され、「夜の床屋」となっています。

佐倉亮をメインの登場人物とした日常系ミステリー……と思いきや結構物騒な事件ばかり、ラストは不老不死の人魚まで登場するファンタジーな展開となっていました。

「夜の床屋」書籍概要

慣れない山道に迷い、無人駅での一泊を余儀なくされた大学生の佐倉と高瀬。だが深夜、高瀬は駅前の理髪店に明かりがともっていることに気がつく。好奇心に駆られた高瀬が、佐倉の制止も聞かず店の扉を開けると…。第4回ミステリーズ!新人賞受賞作の「夜の床屋」をはじめ、奇妙な事件に予想外の結末が待ち受ける全7編を収録。新鋭による不可思議でチャーミングな連作短篇集。「BOOK」データベースより

  • インディアン・サマー騒動記(2011年3月/東京創元社 ミステリ・フロンティア)
  • 夜の床屋(2014年6月/創元推理文庫)※改題

夜の床屋

大学生の佐倉と友人の高瀬は山道で遭難した。なんとか一夜を明かす場所としてたどり着いたのは無人駅、おまけに周囲は寂れていて飲食店どころか自動販売機すらない。翌朝の列車までの間、2人は駅で野宿をすることにした。

深夜、トイレに行った高瀬が駅前の理髪店に灯りが点いていると言いながら戻ってきた。確かにうら寂れた三上理髪店には「営業中」の札が掛っていた。好奇心から扉を開けた2人に、店主は予約客が来るまで時間があるからシャンプーと髭剃りをしていかないかと誘う。こんな夜中に店を開けた理由を教えてもらうため、2人は客となった。佐倉は店主、高瀬は娘だという夏美が担当した。

三上理髪店は過疎が進む村で営業が続けられなくなったため閉店したものの、村人からの要望で予約制で店を開けることにした。昼間は別の仕事をに就いているため店を開けるのが夜遅くなるそうだ。予約客はキャンセルになったようだが、さっぱりした2人は駅へと戻ると夜を越し、翌朝の始発でたどり着いた喫茶店に落ち着いた。三上理髪店の話をしている最中、記者だという男が面白そうなので詳しく聞きたいと声をかけてくる。2人から話を聞き終えた記者は、三上理髪店に関する意外な真相を教えてくれた。

 

記者の推理によると、三上理髪店はある誘拐事件に関わっており、店主が2人に話して聞かせたものは作り話、本当は別の目的があって深夜に急遽店を開けることになったようです。

小さな村での他愛ない理髪店の謎かと思っていたら、2人は知らないうちに不穏な事件に関わっていたようです。

空飛ぶ絨毯

友人の真紀のイタリアへの留学が決まり、佐倉は海霧で有名な故郷に帰省した。送別会の席で真紀は、最近絨毯が盗まれたという不思議な話をはじめる。部屋のお金には一切手を付けず、真紀の絨毯だけが無くなっていたらしい。それも真紀が寝ている最中に。その日の真紀は酔っ払っていたせいか絨毯がふわふわに感じたこと、空を飛ぶ絨毯に乗っている夢を見ていたことなどを追加する。絨毯は友人の店で購入したもので、お小遣い程度で買えるものだった。

また小学生の頃の不思議な体験も話す。両親が共働きのため夜も一人で留守番をしていた真紀は、町に濃霧が発生した日は秘密の散歩に出るのを楽しみにしていた。そこで同じく散歩をしている同い年くらいの少年と会い意気投合する。だが母親に夜の外出がバレたことで真紀の散歩は終わりになる。名前も知らない少年と真紀は、毎年7月7日にこの場所で会おうと約束したものの、そのことを忘れた真紀は一度も約束の場所へと行かなかったらしい。

話を聞いた一か月後、真紀の訃報が届き、佐倉は再び故郷に戻った。墓参りをした佐倉は、送別会に同席していたある友人を呼びだしていた。そこで、真紀が遭遇した2つの不思議な事件の真相を解き明かして見せた。

 

「夜の床屋」ではただ巻き込まれただけの佐倉が、打って変わって名探偵になっていました。小学生時代の話と最近の盗難事件をうまく結びつけて推理をするのですが、真紀から聞いた話だけで事件の真相にたどり着くのは少し推理が飛躍しすぎな気がして、話に入り込めませんでした。そして結構強引な推理だと思うのですが大正解だったようです。

ちなみに真紀の急死に不自然なところはなかったそうです。死なせる理由が分かりませんでした。

ドッペルゲンガーを捜しにいこう

マンションオーナーの孫だという少年から、ある廃工場にいる中島くんのドッペルベンガーを捕まえて呪いを解く手伝いをしてほしいと頼まれた佐倉は、何か魂胆がありそうだと思いつつも引き受ける。その後、小学生の女の子から片岡という少年に気を付けるよう忠告を受けた。

当日、2人ずつ3つのチームに分かれて廃工場の捜索を始めた。佐倉が組んだのは片岡。母親の再婚問題で悩んでいるらしいこと、中島と2人、よく転ぶという以外普通の少年だった。途中、中島とその相棒がドッペルベンガーに捕まり部屋に閉じ込められたものの、無事に中島はドッペルゲンガーを捕まえ呪いを解いたらしい。その証拠にドッペルゲンガーの涙を浴びたという中島の頭は濡れていた。

後日、ふたたび現れた少女に廃工場での出来事を話して聞かせるのを隣人に聞かれていたらしい。改めて隣人にも話をすると、彼女は少年たちのやったドッペルゲンガー探しには重要な目的があり、その目的を達成するために佐倉が利用されたことを話し始めた。

 

片岡くんの母親再婚問題に絡んで、少年たちが仕組んだ友人思いの「ドッペルゲンガー探し」でした。ドッペルゲンガーは口実で、佐倉にドッペルゲンガー探しを体験させることが目的だったようです。小学生だけで考え着くはずもなく黒幕がいたようです。

葡萄荘のミラージュⅠ・葡萄荘のミラージュⅡ

資産家の友人・峰原の家が所有する別荘「葡萄荘」が手放されることになり、最後にと滞在を誘われた佐倉は、高瀬を伴って参加することにした。峰原曰く、葡萄壮に隠してあるかもしれない宝物を捜索したいのだという。峰原の祖父の祖父・幸吉氏は彼の恩人・ローランドにプレゼントするために葡萄壮を建てたらしく、自身が死ぬ間際に外観、内装、調度品に至るまで葡萄壮には一切の手を加えてはいけないと言い遺した。

別荘最寄りの駅には、峰原の弟・拓美が迎えにやってきた。車の中で2人は拓美から、最近無人の葡萄壮に何十匹もの野良猫がやってくるという不思議な話を聞く。

葡萄壮周辺に多くいるという猫がいなかった。峰原もいなかった。しばらく戻ってこられないという書き置きを残してヨーロッパに旅立ったらしい。野良猫たちは貴賓室の書斎で寛いでいた。ひとまず野良猫の件を片付けた3人は、なぜ野良猫が葡萄壮に群がっていたのかを話し合っていた。葡萄壮が建てられるいきさつを拓美から聞いた佐倉は、ローランドが香水の製造と販売をやって富を稼いだ話を聞き、その香水に惹かれて猫がやってきたと仮定して推理をすすめ、葡萄壮に隠されているのは幸吉氏ではなくローランド氏の財産、隠し場所もそのヒントも葡萄荘に隠されていると見当をつけ、別荘の捜索を開始した。

3人は、図書室の不自然なつくりからヒントを得て隠し部屋からローランドの香水「ミラージュ」を探し当てる。そして峰原が突然ヨーロッパへ旅立った理由もそこにあるのだと知る。ローランドの残した香水は非常に高価で価値があるらしく、売れば十数億にもなるという。峰原は一足先に隠し部屋を見つけて香水のレシピを手に入れ、調香師を探すためにヨーロッパに渡ったものと思われた。

後日、峰原からある車いすの儚げな女性とのツーショット写真が送られてきた。手紙には「『眠り姫』がなぜ目覚めたのか教えてください」と海洋生物学者で作家のパーカー氏に尋ねて欲しいと添えられていた。つてを頼り、佐倉は来日中のパーカーとの面会にこぎつけた。

事情を聞いたパーカーは佐倉に自著を渡し、答えはこの小説の中にあると答えた。タイトルは「『眠り姫』を売る男」だった。

 

隠し場所、暗証番号ともにかなり厄介な謎解きだったのに、峰原は一人で、佐倉達は3人でさくさく解きました。こんなにあっさり葡萄壮の秘密が解けるなら、建てられてから100年の間に、親族の誰かが解いていた気もします。

『眠り姫』を売る男

ウィリアム八世の監獄と呼ばれる元お城に手を入れて出来た監獄に、新しい囚人がやってきて。クインという物静かな男だった。乱暴な看守・ジャックに目を付けられしょっちゅう暴行を受けているクインに、賄賂を贈ることを提案し酒をあげたダンに対し、クインは自分がここに来た経緯を語る。美術商だったクインは共同経営者を殺害した罪で捕まったのだ。共同経営者は以前から命の危険に晒されており、クインも同様だった。殺し屋たちから逃げるため、クインは共同経営者殺しの罪を被って安全な監獄へと逃げてきたのだった。

ある夜、女を見つけて呼び止めたらやられたと言い遺しジャックが死んだ。足を大型犬のようなものに噛みちぎられ周囲は血の海に染まっていた。だが女の姿は監獄のどこにもなく、囚人は全員牢の中、全ての看守にアリバイがあった。ダンと友人のパッドは、クインを誘って埋め立てられた井戸の跡を探すことにした。ウィリアム8世が捕虜の首を跳ねて放り込んだという噂の井戸だ。その井戸が監獄の外に繋がっているとダンは考えたのだ。井戸はあった。巧妙に隠されていたもののどうやら外に繋がっているらしい。外の協力者が新しい身分を作ってくれる。ダンはクインにも脱獄を誘うが、クインは殺される運命にあるから逃げても無駄だと言い、人魚にまつわる話を始めた。

クインは師匠から引き継ぎ、人魚の売買を行っていた。人魚といっても生きたものは手に負えない。自分で保護膜を作り眠りについた人魚、通称「眠り姫」を売買していたのだ。眠り姫は非常に高価で人気が高いが数も多くはなく、50体ほどをクインは商品として持っていた。ある日資産家がすべての眠り姫を買いたいと申し出てきた。お金ではなく財宝などでの支払いだったが、資産価値も高かったためクインは了承した。すると他の好事家たちが激怒し、クインは共同経営者ともども命を狙われることになった。

逃げ回るうち、難に遭う前かならず人魚の影がちらついていることにクインは気が付いた。眠り姫を売り買いするクインに怒った人魚たちもクインの命を狙っていると。ジャックを殺した女は人魚に違いない、もうどこに逃げても無駄だというクインに対し、ダンは自分の考えを聞かせた。

 

人魚はクインの命を狙っていたのではなく、クインの命を狙う人間を排除しようとしたのではないかとダンは推理しました。そのためジャックは狙われたのです。人魚に狙われないと納得したクインは、ダン、パットとともに脱獄しました。

エピローグ

佐倉は峰原と映っていた車いすの女性は、眠りから覚めた人魚だと推理した。パーカー氏は人魚が眠りから覚めた意外な理由を自分なりの解釈でもって話して聞かせる。

パーカー氏と別れたあと、佐倉は今までに出会った不思議な事件・夜の床屋、空飛ぶ絨毯、ドッペルゲンガー探しも全て人魚が関わっていたのではないかと考えた。

 

強引なラストでした。エピローグ、必要でしたかね?

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1つ1つの話は面白いのですが、無理に関連性をもたせようとしてか、全体的にちぐはぐな印象を受ける一冊でした。もったいないです。連作短編ではなく完全に独立した話にした方が良かったのでは?と思ってしまいました。

人魚を登場させて短編ごとのちょっとした違和感・不自然さを解消した分ファンタジー要素が強くなり、結果方向性が良く分からない仕上がりになっていたと思います。