梓崎優『叫びと祈り』あらすじとネタバレ感想

梓崎優さんの「叫びと祈り」のあらすじと感想をまとめました。

アンソロの「放課後探偵団」に収録されていた「スプリング・ハズ・カム」が面白かったので興味を持ち読んだ一冊です。

受賞作の主人公を中心に据えた短編連作でした。

スポンサーリンク

「叫びと祈り」書籍概要

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作。「BOOK」データベースより

  • 叫びと祈り(2010年2月/東京創元社ミステリ・フロンティア)
  • 叫びと祈り(2013年11月/創元推理文庫)
created by Rinker
¥792(2020/10/31 03:10:57時点 楽天市場調べ-詳細)

砂漠を走る船の道

情報誌の取材のためサハラ砂漠を渡るキャラバン隊に同行することになった斉木は、30頭のラクダと5人の男という隊列で貴重な塩の取引のためある集落へと向かっていた。目印も何もない広大な砂漠のなか集落への道を知っている長、集落へは10度目のバルボエ、今回が集落へ向かうのが初めてというケンブ、常に隊のしんがりを守るカスラン。バルボエは未だに集落への全行程を把握できていないが、長のお気に入りのメチャボなら知ってるかもしれないと冗談を言う。メチャボは整然と列を組むラクダの間を小さな体で自在に歩いており、人見知りが激しく長にしか懐かない。

過酷な15日間を経て集落へと到着した一行は翌日取引で得た塩を積んで出発した。帰路4日目、シムーン(毒の風)と呼ばれる赤い砂の海が現れ一行を襲う。シムーンは長の命を奪っていき、長の亡骸は墓標を立てられることもなく砂漠へと残され、一行は出発した。翌朝、ケンブの死体が見つかった。砂の民の男たちが常に持っているというナイフを胸に突き立てられている。重苦しい雰囲気のまま一行は野営地を後にした。砂しかないこの場所でケンブを殺せたのはメチャボはナイフを持っていないため、斉木、バルボエ、カスランの3人しかいない。知り合ったばかりの斉木は動機がなく、バルボエとカスランはお互いへの疑心暗鬼で一触即発状態に陥る。ケンブの死は事故と自殺が両方合わさったものだと推理してその場を収めた斉木だったが、更に翌朝、もう一つの遺体が生まれた。殺人犯と対峙した斉木は、なぜ犯人が長の死をきっかけに次々と仲間を殺し始めたのか語っていく。

 

叙述トリックと意外な殺害動機という2本柱の短編でした。

白い巨人

サクラは大学時代、留学生を支援するというサークルで出会った友人、斉木とヨースケに誘われ真夏のスペインの田舎町レエンクエントロへ旅行に来ていた。そこは1年前に彼女に振られた街で不思議な体験をした街でもあった。2人で旅行したその日、青い屋根の風車の下でサクラは唐突に彼女に別れを告げられた。茫然とするサクラを置いて彼女は風車小屋へと入っていく。1時間後、ようやく我に返ったサクラが風車小屋へと入り、狭い螺旋階段を上り風車の中心部の部屋をウロウロし、それから小さな窓から外を見る。彼女はどこにもおらず、それっきりサクラの前から姿が消えた。

レエンクエントロにはいくつか風車小屋がある。その中の一つの土産屋で、3人は不思議な伝説を聞いた。イスラム教勢力とキリスト教勢力がスペイン全土で争っていた数百年前、キリスト教側の兵士がイスラム軍に追われ手近な風車に逃げ込んだ。追いかけた2人のイスラム兵士のうち一人が見張りをし、もう一人が風車小屋へと入っていった。やがて仲間が到着し風車小屋へと突入しようとした時、先に入った方が「兵士が逃げた!」と叫んだ。風車小屋はもぬけの殻だった。その後重要な情報を携え戻ったキリスト兵によりキリスト教側は次々にイスラム軍を撃退していった。という伝説だ。ヨースケの発案で、3人はそれぞれ兵士が消えた謎「兵士パズル」に取り組むことになった。

ヨースケはやる気満々、斉木はパズルはフェイクだと言う。サクラはただ一人になりたくて了承したが、まるで1年前、風車から消えた彼女とそっくりなシチュエーションだと思った。集合場所である青い屋根の風車へと向かい、ヨースケや斉木の推理を聞きながらサクラは恐ろしい結論に至ってしまった。それは、あの日彼女が風車小屋で風車の管理人に鉢合わせ、何らかのトラブルが起きて殺され風車のどこかに隠されているというものだった。

 

叙述トリックでした。兵士パズル自体は解く意味がないと分かりましたし、彼女が消えた謎は答えが分かってみればあっけないものでした。叙述トリックのための謎という印象です。

凍れるルーシー

取材のため、ロシア正教会の司祭とともに斉木はウクライナに隣接する南ロシアの女子修道院を訪れていた。今から250年前に女子修道院で暮らしていたという女性・リザヴェータの遺体は、今もなお腐敗しないまま当時の姿を保っているという。今回の訪問はリザヴェータの奇跡に対して列聖してほしいという依頼の手紙が、「生ける聖人」と呼ばれる周囲からの信望が厚い院長から届いたためだった。

修道院にはスコーニャというリザヴェータを熱心に崇拝する修道女がおり、昼も夜もなく祈りを捧げていた。いつも通り祈り続けていると修道院長とともに2人の男性が現れた。胸の前で十字を切る男性が今回の審問官だろう。スコーニャは3人に見つからないよう息を潜めて成り行きを見守った。

聖堂の奥の祈りの間にリザヴェータの棺がある。院長に案内され棺の蓋の分厚いガラスから覗いた場所には、黒いヴェールを被った人間が目を閉じて横たわっていた。まるで生前と変わらず今にも起きだしそうだが、院長によると防腐処理など一切行っていないという。審問官の感嘆した様子からリザヴェータが聖人として認められると喜んだスコーニャだったが、明日から3日間一人で祈りの間に籠もりたいという言葉を聞き不安に駆られる。院長も了承し、夜の食事だけ運ぶことに決まった。

修道女たちとの食事を終えあとは寝るだけとなった院内で、斉木は院長と出会い会話を交わす。これから一人祈りの間で祈りを捧げるのだという。翌日話を聞く約束をし2人は別れた。翌朝、司祭が祈りの間に行くのについていった斉木はぐるりと棺の周囲を歩き、分厚いガラスの向こうにぼんやりと見える生気のない顔を見る。祈りの間に籠った司祭から離れ聖堂の脇を歩いていた斉木は、黒衣をまとい佇んでいる女性と出会った。どうかしたのかと尋ねてくる女性に斉木は言った。「スコーニャ、なぜあなたは修道院長を殺したのか」

 

解決編(?)を読むまで何のことだかさっぱり分かりませんでした。スコーニャはある信念を持って院長を殺害したようです。ラストでリザヴェータの復活を仄めかすような描写がありましたが……やっぱり良く分かりません。

叫び

団体には所属せず個人で医療活動を行うアシュリーに同行し、大変な時間と行程を経て斉木はようやくアマゾンの奥地のある小さな部族の村に辿り着こうとしていた。何度か足を運んでいるというアシュリーは途中歩みを止めた。遺灰が多すぎると言う。その村では死者は焼かれ灰が撒かれて土へと還っていくのだ。村には異変が起きていた。斉木達を迎えたのは6人、それ以外の村人は全員が病に倒れほとんどが死んでいっているという。通訳ができるダビを介して事情を聞くと、10日前の祭りで珍しい猿を捕まえ皆で食したのが原因と思われた。病気を特定するのは難しいと言いながらも、アシュリーはエボラ出血熱だろうと判断した。

おそらくまだ元気な6人も看病で病人の血液や体液に触れている。いずれは発症し村は全滅するだろう。話を聞いた長老は滅びを受け入れると、自分たちが今まで生きたことは最高の栄誉であり、あとは部族の歴史の最後に己の名前を残すのみだと言った。アシュリーに言われ斉木は救援を求めるため村を離れることになった。エボラから斉木を遠ざける目的もあった。ダビの案内で川を目指す途中、斉木は子守唄をうたいながら赤ん坊を抱く女性を見た。赤ん坊はもう息をしていないとダビは言う。

川は増水し村へ行く時に渡った橋が流されていた。他の道をとダビに言いかけた時、突然ダビが叫び声をあげた。そのうち狂ったように笑い出すと「終わり」だと言いながら走り出し熱帯雨林の中に姿を消していった。斉木も来た道を引き返す。その途中、先ほどの母親が首を切られて死んでいるのを見つけた。エボラの感染に気を付けながら村へと戻った斉木はアシュリーに出会う。開口一番、2人は同じ言葉を口にした。「お前が殺したのか」「あなたが殺人者ですか」

斉木とダビがいなくなった村では長老をいれ3人殺されていた。殺された人間は全員首を切られていた。つまり犯人は返り血を浴びている。きわめて感染率の高いエボラ出血熱の患者の血を浴びるような方法をアシュリーも斉木もとるはずがなかった。元気だった6人のうち4人が殺され、残り2人。絶叫が聞こえた。向かうとそこには村の最後の生き残り、ダビともう一人の男が対峙していた。そしてダビが殺された。斉木は、なぜ滅びを待つばかりの村で男が次々に人を殺していったのかようやく理解した。

 

数日もすれば全員がいなくなってしまう世界でなぜ殺人が起こったのか、ということに焦点を当てた短編でした。答えが凄いです。日本の価値観では到底理解できない感覚だと思います。

祈り

どんな見ず知らずの他人でも、間に最大6人の人間を挟めば実は知り合いだと森野と名乗る知らない男が言った。部屋に貼ってあるゴア・ドアのポスター、日本語に直すと祈りの洞窟を指し、森野は僕にゲームをしようという。「なぜゴア・ドアはゴア・ドアという名称なのか」。森野の持つ答えを僕が言い当てれば勝ちだという。祈りの洞窟は海に囲まれた名もなき小さな島にあった。入り口から50mほどが天然の洞窟で、その奥が人の手によって掘られている。洞窟の終わりは断崖絶壁。なぜ森野がそんなクイズを出すのか分からない。

ブーという無機質な音が鳴った。壁に駆けられた時計の下には「12時になったら食堂で昼食」とメモが貼られている。住み込みのウエムラさんに食堂の場所は分かるのかと声をかけられながらも、僕は案内板を見れば大丈夫だと返す。食堂では別れてから1時間ほどしか経っていない森野にクイズの答えをせかされ、旅人だという彼の話をいろいろと聞かされる。

僕は夢を見ていた。目を覚ましここはどこだろうと考える。今はいつだろう。砂漠を走る物語、白い巨人の物語、霧の大地の物語……びっしりと文字で埋め尽くされたノートを手にとっていると、扉の隙間から声が漏れ聞こえてきた。「昔の大学生くらい」「箸のつかいかた」「どうして…戻らない」「一か月前」森野とウエムラさんの声だった。衝動的に部屋を飛び出し外へ逃げ出そうと屋上への扉を叩き続ける僕を森野が追ってくる。ゴア・ドアの祈りの洞窟のように僕はここに閉じ込められている。僕は分かっていた。森野は初めて見る人間ではなく、何度も僕の前に現れ様々な旅の話を聞かせてくれていることを、ノートを確認しなくても分かる。森野は、祈りの洞窟のクイズは何通りも回答があり正解がない、どういう答えを導くかでその人の中身が分かると言うと、僕がゴア・ドアは牢獄だと回答したのは僕自身が閉じ込められているからだと説明する。

 

東ティモールで暴動に巻き込まれ、救出されたものの記憶を失ったばかりか、毎日記憶がリセットされるようになってしまった斉木の話でした。最初から読んでいけば僕=斉木というのは割と早い段階で分かります。

□□

「砂漠を走る船の道」が一番分かりやすく面白かったです。自分とは違う価値観、その地域やコミュニティー独自の価値観が殺人の動機というのが多かったです。叙述トリックが得意な作家さんという印象が強くなりました。