高田崇史『クリスマス緊急指令』あらすじとネタバレ感想

高田崇史さんの「クリスマス緊急指令」のあらすじと感想をまとめました。

クリスマスに纏わる短編を集めたものとなっており、ミステリーから青春小説のようなものまで多岐に渡っています。

「クリスマス緊急指令」書籍概要

  • クリスマス緊急指令〜きよしこの夜、事件は起こる!〜(2007年11月/講談社ノベルス)
  • クリスマス緊急指令〜きよしこの夜、事件は起こる!〜( 2015年9月/講談社文庫)

鏡影【緊急推理解決院EDS歴史推理科】

医学部卒業後の研修生一年目、和藤は「緊急推理解決院」通称EDSの歴史推理科へ外嶋先生の助師として派遣された。理由は「和藤(わとう)さん」がワトソンに聞こえるからというものだった。早速事件が持ち込まれた。被害者は証券会社の営業部長・大友司郎、背後から包丁を突き立てられ、手には古今和歌集の大伴黒主の和歌のページを破り取った紙片を握っていた。

容疑者は大友の部下で愛人の神谷未来、大友に接待を強要されていた会社の加賀実、恋人がいるのに大友からしつこく言い寄られていた深山京子の3人。

文学推理科ではなく歴史推理科に回された案件ということは、歴史に絡んだ事件という事らしい。和藤は外嶋先生から古今和歌集が編纂された時代背景や、当時の政治勢力図などを教わりながら犯人を推理していく。

 

歴史を絡めたミステリーが得意な作者ですが、歴史が苦手な読者にとっては付いていくのが大変な短編でした。読み終わった瞬間、歴史に関するうんちくは綺麗さっぱり頭から消えました。手に握っていた紙片は犯人を示すダイイングメッセージですが、解くのが難しいです。

クリスマスプレゼントを貴女にーK’s BAR STORYー

マホガニーの一枚板のカウンターのK’s BARで、パーフェクト・オールマイティ・コンサルタントを名乗る男・神籬(ひもろぎ)に呼び出された桜岡麗子は、彼に乞われるまま「安田慎司」に関する全てを語りはじめる。

麗子は幼いころ父に女が出来たという両親の離婚によって妹の理恵子とは生き別れになり消息は分かっていない。母が過労で倒れ死んだのちも苦労を重ね、アパレル業界で会社を立ち上げるまでになった。

ある日、どこにいるのか分からない妹の理恵子から話を聞いたという安田から、馴れ馴れしく名前を呼ばれたことをきっかけに付きまとわれるようになった。安田はヤクザまがいのどうしようもない男だった。麗子が遅くまで仕事をして帰宅する途中、背後から何者かに襲われクロロホルムを嗅がされて意識を失った。気が付くとアルコールの匂いをぷんぷんさせた状態で自宅前に倒れていた。飲んだ記憶もないのにその夜の駅前のバーで、麗子がしたたかに飲む姿を何人もに目撃されており、この日を境に安田を見なくなった、というものだった。

麗子から話を聞き終わった神籬は、おもむろに麗子が体験した不思議な体験の裏側を語る。

 

麗子を襲ったのは安田で、すでに安田は何者かに刺殺されていることが神籬によって明らかにされています。彼は理恵子の依頼で動いていたようです。麗子の体験した話をA面とすると、神籬が語るのはB面、理恵子から見た事件の真相でした。両親の離婚の本当の理由も明かされ、なかなか心温まるラストシーンとなっていました。

想い出は心の中でーK’s BAR STORYー

K’s BARで飲んでいる神籬のところへ一人の女性がやってきた。名前は経堂優理子、最近になって相手の考えていることが分かるようになったのだという。優理子は化粧品会社の同僚・雪枝と直属の上司・久保木の話を始める。

優理子と雪枝は同期入社ということもあり仲が良かった。久保木は信頼できる上司であり、よく何人かと集まって食事をしていたが、そのうち優理子は久保木から特別な好意を向けられているのが分かるようになった。優理子は上司と部下の関係を超えて久保木と付き合うようになり結婚を考える間柄になったが、そのことを雪枝に内緒にしていたせいか、バレたあとは彼女との関係は遠ざかってしまった。しかも優理子には、雪枝もまた久保木に好意を抱いており、優理子を殺したいくらい憎んでいることが読めてしまった。いつの間にか会社を辞め姿を消してしまった雪枝とは連絡が付かない状態だという。最後に雪枝と会った時に感じた強い殺意から、次に彼女と会う時が怖いと優理子は言う。

話を聞き終わった神籬は年内に優理子の悩みを解決するといい、雪枝は実家にいると告げた。

 

雪枝は駅のホームからの転落によって既に亡くなっていました。事故か自殺かと思われたその死の真相は、神籬が優理子から話を聞いているうちに思わぬ展開へと転がることになりました。こういうラストでいいのかな。結局犯罪が隠蔽された状態で、いまいちすっきりしません。

迷人対怪探偵

クリスマスイブ、芳雄が家に帰ると机の上には父親の書いた小説があった。去年父の書いた小説をつまらないと散々くさしたせいか、意地になって書いたものらしい。そこには「驚愕のミステリー登場!」という謳い文句まで書かれていた。

 

明智小五郎と小林少年、怪人二十面相、ホームズやモリアーティー教授の名前やベーカーストリートをもじったごちゃまぜパロディーが3編ありました。ミステリーではなくパロディー小説ですが、ラストに父親の正体がある人物であったことが仄めかされています。

オルゴールの恋唄

オーナーの趣味の西洋アンティークのオルゴールが目玉の和風旅館「望月庵」のフロントロビーで、今晩もオルゴール演奏会が開かれた。オルゴールの管理を専門にやっている従業員が体調を崩し調律を終えた後に帰ってしまったものの、支配人の中堀の進行でそれぞれのオルゴールの特徴や構造の違いなどの説明とともに順調に演奏会は進んでいった。だが3つ目のオルゴールの演奏が始まった時、観客たちはあっけにとられ顔を見合わせた。流れてきたのは、まったく旋律をなさない調子はずれの雑音ともいえる曲だったからだ。調律を誤ったらしい。演奏会は解散となった。

中堀のもとに鬼のような形相をした三十くらいのオールバックの男が、調律師に会わせろと迫ってきた。調律師に会うまで連泊してもいいと言うしつこさだった。

壮年の夫婦が隅のソファに座っていた。泣く婦人を抱きしめている夫からも涙が見えた。演奏会の2曲目まではニコニコしていたため、具合でも悪くなったのかと中堀が声をかけたが大丈夫といい、ただただ肩を寄せ合って泣くばかりだった。

小さな女の子と2人で宿泊している女性がオルゴールに見入っていた。演奏会の不備を謝罪する中堀に、最後の演奏が一番素敵だったと言う。最後の曲は、調律を失敗したオルゴールだった。

女性の一人客が中堀に声をかけてきた。最後の曲をと言うので謝罪すると、もう一度最後の雑音だらけの曲を聞かせてほしいという話だった。

調律済みのオルゴールがおかしくなり、不思議な客が次々に現れる。支配人の中堀は一緒にいた従業員の長谷川とともに狐につままれたようだと首をかしげた。

 

望月庵の不思議な宿泊客たちは、それぞれが意識していないものの実は全員が繋がっていました。偶然このタイミングで望月庵に泊まりに来ただけですが、人間関係がクモの巣のようになっていたという何とも不思議な話でした。調子はずれのオルゴール曲は、聞く人によってさまざまな形で受け取られ、最後はハッピーエンドで締めくくられました。

茜色の風が吹く街で

中学2年生の「ぼく」こと中田は、ある放課後、先輩に囲まれ暴力を受けていた一匹狼の山崎を偶然助けたことから、彼との交流が始まった。ぼくと山崎はタイプが違ったものの音楽で意気投合し、なかなか友好な友情関係を築いていた。

ある日、事件が起こった。期末試験問題盗難事件だった。誰かが職員室に忍び込み、英語と社会の問題用紙を1枚ずつ、国語の問題用紙を2枚盗って2階の窓から逃げたというものだった。教師らの管理の甘さもあったが、問題は作り直され、通常通り試験も行われるだろう。

教室内のあちこちで犯人が誰なのか推理されるなか、ぼくと山崎の話題も盗難事件へと向く。

 

犯人は意外な人物でした。国語だけが2枚持ち去られていたのがポイントでした。犯人は謝罪し、実害も出ていなかったため寛大な処置がとられたようです。

 

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頭を使うものから気軽に読めるものまで、振り幅の大きな短編集という印象でした。

探偵役がいて犯人を指摘するというミステリーの王道からは外れますが、「オルゴールの恋唄」が一番後味も良くほっこりとするストーリーでした。