滝田務雄「田舎の刑事シリーズ」第3弾『田舎の刑事の好敵手』あらすじとネタバレ感想

滝田務雄さんの「田舎の刑事の好敵手」のあらすじと感想をまとめました。

田舎の警察署の刑事課に所属する黒川と部下の白石・赤木、普通の主婦の黒川の妻たちが今回も愉快な騒動を繰り広げながら2件の殺人事件を解決していきます。

黒川の高校時代の同級生で現在は首席監察官というエリート警視正・透山が田舎の警察にやってくるということでガチンコ勝負になるのかと思ったのですが、警視正も同類でした。

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「田舎の刑事の好敵手」書籍概要

県警本部より首席監察官が視察にやって来る。監察官とは警察内部の警察だ。この知らせに問題だらけの田舎の刑事たちは大慌て。しかもこの監察官、黒川鈴木の高校の同級生でありライバルだったのだが、警察官としては致命的な欠点があり……。はた迷惑な来訪者のせいで署内がパニックに陥るが、小劇団事務所荒らしの捜査に駆り出された黒川。無能な部下・白石や恐るべき黒川夫人、そして暴走する元ライバルに頭を抱えながら捜査を進めるが、やがて殺人事件に発展し?! 田舎でだってやっぱり難事件は起こる。大好評ミステリ第3弾。「BOOK」データベースより

  • 田舎の刑事の好敵手(2014年12月/東京創元社)

あらすじ

高校時代のライバル、現在は警視正と田舎の警察の巡査部長という雲泥の差がついている透山が古くからの友人である黒川に会うため自らに監査にくることになり、首席監察官がやってくるほどの不正はしていないと署長から対応を託されパニックになった課長の暴挙によって署長ら数人が窓から落ちたり、滑って転ぶほど廊下にワックスを掛けたり、鑑識が不都合なものを隠ぺいするため署内を捜索するなど大騒動になっていた。一方黒川は、充実したカントリーライフを送る小粋な紳士を気取るべく古本屋でハーブの本を購入し、お金をケチって道端で摘んだ雑草を煮出してハーブティーを作ろうしていたのを妻に見つかり胡麻化しきれず、窓から逃げようとして顔から転落し救急車で運ばれた。黒川と課長の間に白石が入ったため、黒川が沖縄のハブを煮ようとして誤って噛まれたと伝わり、白石が落としたタイヤキを犬と奪い合い犬に噛みついた事件とともに不祥事として監察官に報告すべきか課長が悩む事態に陥っていた。

透山は部下の七宝亜矢が運転する車で田舎の警察署に向かっていた。わざわざ透山が出向く理由が分からないという七宝に対し、事件の発生件数に対する検挙率が異常に高いと返す。透山には黒川がいるせいだと分かっていたが、七宝は報告書の水増しを疑い納得する。途中、車の調子がおかしくなり先に透山だけがタクシーで警察署に向かうことになった。まもなく署に着くという頃、署を出ていくパトカーとすれ違う。中に黒川の姿を見つけた透山はタクシーでパトカーを追いかける。着いた先は、トタン屋根の古い倉庫のような建物だった。4人だけの児童向け劇団「劇団キンギョ座」の事務所だった。

演劇好きが集まってほとんど道楽のようにやっていると説明するのはリーダーの差地公也だった。人数が少なすぎるため一人で役者も裏方も兼ねているが、脚本だけは外部に委託してオリジナル劇をしているという。今回ヘリウムガスを使ったピエロの風船パフォーマンスを劇に取り入れたものの、操作する役者が怪我をしたため、臨時でアルバイトを雇っていた。通報を受けてやってきた黒川達はめちゃくちゃに荒らされた事務所内に案内された。スチールラックは倒されて物が散乱し段ボール箱は引き裂かれて入っていた衣装や小道具が投げ出されている。暴力的な状態で、家探しをしたというより破壊が目的のような有様だった。こんなことは今回が初めてらしい。数字式の南京錠が壊されて侵入されていたが、貴重品などはないためそれほど施錠に気を配ってはいなかった。また事務所が荒らされている一方資料室は手が付けられておらず、過去の脚本や演劇に関する書籍は綺麗に本棚に収まっていた。

差地から連絡を受け他の劇団員もやってきた。村西希美、桑木比呂美、黒川の妻。なぜ妻がここにいるのかと問う黒川に対し、彼女はアルバイトだと返した。追いかけてきた透山も到着し、現場は混乱した。透山は監察官としては優秀だが、その場のノリで事件に首を突っ込み見当はずれの頓珍漢な事を言って現場を荒らすという悪癖の持ち主だった。要は事件好きだが捜査能力は皆無だった。怪奇ミステリー事件だという透山を宥めつつ、今回の事件に黒川はどこか違和感を感じるもののその正体は掴めない。

課長に尋問じみたことをしたものの検挙率の「裏」が見つけられないと悔しがる七宝とともに透山は黒川の自宅へと向かった。整備工場に預けた車を引き取ってきた七宝だが不調の原因は分からずじまいだったという。黒川家の庭は酷い状態に荒らされており事件だと騒ぐ透山を、ガーデニングの結果であることを隠し宥める黒川の元に本物の事件の一報が入った。劇団キンギョ座の次回公演場所であるフェニックス公民館で、差地公也が死亡しているというものだった。黒川がタクシーで公民館に向かうというので、透山は日中使ったタクシーの運転手を指名して呼んだ。給料が歩合制だと聞いていたからだ。付いてくるなと言ったにも関わらずタクシーに乗った黒川とそれを追いかけて透山と七宝、黒川夫人も公民館に到着した。

差地は公民館の裏に倒れていた。休館日のこの日、差地は芝居に使う道具を搬入していたようで出入りはスタッフ用通用口しか開いていなかった。また公民館内はあちこちが施錠されており、出入口から延びる廊下の突き当たりにあるエレベーターを使って3階の倉庫に行く以外どこにも出入りは出来ない。建物の外には非常階段が設置されているがオートロックのため、中から外に出ることはできても外から建物内に入ることはできない。倒れている差地のそばには空気の抜けたピエロのバルーンがあった。当初は3階の窓から落ちたものと思われたが、首を絞めて殺害した後3階から落とされたものと分かった。差地の名前を聞いた途端、明らかに七宝の様子が変わった。その後公民館の警備員の証言により、差地が殺害された時間に七宝が公民館にいたことが分かる。その後七宝の車のバンパーの裏から差地を気絶させるのに使ったハンマーがガムテープで張り付けられているのが見つかり、彼女は容疑者として拘束されることになった。

七宝と差地は実の兄弟だった。15年前、彼らの母親は父親の暴力に耐えかねて七宝だけを連れて家を出ていった。残された差地は一人暴力に耐えることになったがその1年後、差地の目の前で父親が何者かに殺されるという事件が起きた。母親の思い出である革のカバーがかかった絵本を抱きかかえたままじっと隠れていた差地は無事だった。差地の証言から父親を殺害した犯人を追うも未解決のままである。最近になって七宝は兄の居場所をつきとめ連絡を取り合った。公民館へ行ったのも兄と会う約束をしていたからだが、1時間待っても差地は姿を見せなかったため会えずじまいで帰ったと言う。

  • 午後3時、差地が公民館へ来る
  • 午後3時半、七宝が公民館へ来て3階の倉庫で待つ。窓の下を見たが遺体はなし
  • 午後4時前後、差地の死亡推定時刻、死因は扼殺
  • 午後4時半、七宝が公民館を出る
  • 午後6時半、見回りの警備員が遺体発見

黒川のメモには、遺体の近くにピエロのバルーンとボンベが2本置いてあったことが記された。

黒川と白石は実験を始めた。窓から遺体を落とさなくても、3階と同じ高さから遺体を落とすことが立証できれば七宝の容疑は薄まる。透山と同じく黒川も七宝の無実を信じていた。一番手っ取り早いのは屋上から遺体を3階の高さまで下ろすことができればいいのだが、屋上は子どもたちがボール遊びをしてもいいよう金網が張り巡らされて鳥かごのようになっており、せいぜいロープ程度で人間が通る隙間はなかった。

黒川は残りの劇団員、ケガをした大水正志から脚本を巡ってゴタゴタが起きていたことを知る。脚本はいつも差地が「おとうさん」と呼んでいる正体不明の人物が手掛けており、当初はピエロのバルーンの登場は予定されていなかった。だが急遽脚本が書き換えられ、必要のない演出に劇団員たちは反対したが「おとうさん」に全幅の信頼を置いている差地は聞き入れず結局差地の意見が通った。

透山と黒川の妻は荒らされた劇団事務所へと向かった。資料室だけ無傷だったことから、犯人は資料室を警察に調べられたくなかった=犯人にとって重要な何かがあると考えたのだ。黒川夫人が脚本が並んだ棚から革のブックカバーがかけられた絵本を見つける。「ウォレス・ジャケット」というタイトルの絵本は著者が八目宇凪、イラストが差地の亡くなった父親だった。几帳面に整理整頓をしていた差地が絵本を脚本コーナーに並べていたことや文体がそっくりなことから、八目宇凪が「おとうさん」だと検討を付ける。ブックカバーを外すと表紙カバーに指紋がはっきりと分かる血の手形が付いていた。事務所を荒らした犯人は差地を殺害し、ほとぼりが冷めた頃にこの本をこっそり回収するつもりだったと思われる。

絵本に残っていた血の手形は、未解決の差地の父親殺しに関係ありそうだと関係者らの意見が一致した。透山と黒川夫人のタッグにお目付け役として同行することになった赤木は、3人で元刑事の児島の家に向かう。児島は差地の父親の事件を担当しており、事件当時ずっと絵本を抱きかかえていた幼い差地のことを覚えていた。だが児島の記憶にある絵本のタイトルは「クロッカスの犬」だった。当時念のため調べたがクロッカスの犬から犯人の手掛かりは見つからなかったという。透山、黒川夫人とともに県警本部に行った児島は、当時の部下で現職の刑事・香川と再会し未解決のままの事件の話をする。黒川夫人は、暴力をふるう父親から解放してくれた犯人を庇うため、幼い差地はとっさに絵本の中身をすり替えたと推理する。一方黒川は、誰にも気づかれずに差地を殺し遺体を3階から落としたトリックについて頭を悩ませていたが、白石の何気ない言葉をヒントにようやく思考がまとまり犯人の手口を解明した。

絵本「ウォレス・ジャケット」についていた指紋の照合が終わり、八目宇凪こと弘前皆次のものだと判明した。差地の父親の仕事仲間だった人間だ。血液は差地の父親のものと一致し、おそらく弘前が差地の父親を殺した犯人と思われる。弘前の名前を聞いた透山は、声がひっくり返るほど驚いた。

ずっと差地公也が殺害されたトリックを追っていた黒川と白石は、献花のため公民館に訪れた劇団メンバーたちの前で犯人の仕掛けた細工を解き明かし、様々な証拠から差地を殺害した犯人が「おとうさん」だと指摘する。

黒川グループ、透山グループとほぼ同時に真犯人に辿り着き、合流した面々は「おとうさん」ことペンネーム八目宇凪の仕事場へと向かった。

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差地公也は純粋に八目宇凪を慕っていましたが、八目の方は七宝と連絡を取り合っていた差地のことを、警察(妹)に自分を売ろうとしたと曲解して殺意を募らせていった挙句、脚本を書き換えたり事務所を荒らしたりと差地を殺す準備を着々と進めていきました。ろくでもない犯人です。

差地公也殺し、父親殺しの2件を同時解決した黒川たちは後日「キンギョ座」の公演へと向かいますが、ぶっつけ本番で原色ピエロ役を押し付けられた黒川の姿を見た透山に「鋭い鎌を持った殺人ピエロが黒川の奥さんを襲っている」と通報されていました。

事件はともかく、平常時の田舎の警察は平和そうで何よりです。「田舎の刑事」シリーズは3冊刊行されてますが、続編はもうないのでしょうか。なかなか愉快で個性的なメンバーが揃っているので、続編も読みたいです。