滝田務雄「田舎の刑事シリーズ」第1弾『田舎の刑事の趣味とお仕事』あらすじとネタバレ感想

滝田務雄さんの「田舎の刑事の趣味とお仕事」のあらすじと感想をまとめました。

間違いなく優秀な刑事のはずなのに、周囲の人間たちに振り回されてばかりの人間味溢れる黒川が、田舎の警察署管内で起きる不可解な事件を解決していく短編集です。話が進むにつれ黒川が壊れてきている気がするのですが、大丈夫でしょうか。

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「田舎の刑事の趣味とお仕事」書籍概要

彼の名は黒川鈴木。姓名どちらも姓に見えるという点で、まあ珍名の部類に入る。職業は警察官。階級は巡査部長。既婚で子供はない。ふだんはヒマでも、事件が起これば無能な白石と真面目な赤木、二人の部下を連れて現場に急行する。起こる事件は本ワサビ泥棒、カラス騒動…。第三回ミステリーズ!新人賞受賞作から始まる愉快な脱力系ミステリ短編集。「BOOK」データベースより

  • 田舎の刑事の趣味とお仕事(2007年8月/東京創元社)
  • 田舎の刑事の趣味とお仕事(2009年9月/創元推理文庫)

田舎の刑事の趣味とお仕事

丹精込めて育てていた出荷前の本わさびを良いところから根こそぎ盗まれるという事件が起きた。被害額は2ケタでは収まらないという。刑事課の黒川は頭の中身も行動も軽率な部下、白石とともに捜査に当たることになる。ワサビ田の持ち主は、犯人の心当たりは4人いるという。どれもわさび直売所の客で、長距離トラックの運転手、路線バスを使って買い付けにくる寿司職人の卵のアメリカ人、写真が趣味の大型バイクでやってくる男、グルメかぶれで口うるさい4つのヘッドライトのあるレーシングカーみたいな改造車で来る男。

だが目撃者たちの証言では、ライトとは別に2つ並んだウィンカーが点滅していたという証言が一致していたため、犯人は自動車で現場までやってきたものと思われる。目撃者たちは全員がバスの乗客と運転手で、カーブの道を走っている途中に山道に停められている車を一瞬見ただけなので車種などは分からない。おまけに盗難のあった日は雨が降っておりタイヤ痕も足跡も洗い流されていた。トラックは大きすぎて山道に入れない、アメリカ人は車を持っていない、素人カメラマンはバイク、グルメ男はライトの数が多すぎる……目撃情報から容疑者を絞れない状況だった。

仕事から離れた黒川の趣味はオンラインゲームだった。男キャラよりも女キャラの方が周囲が優しく色々教えてくれると聞いたことから、可愛い女の子キャラ・コロナでゲームに参加している。法学部の女子学生としているが実態はれっきとしたオジサンだ。5人一組で期間限定の宝探しイベントに参加するため不足分の仲間を募っていた黒川は、部下の白石高作が本名と警察官という身分を明かしつつ仲間に加わったことを知り驚愕する。白石ことコサクは、本人が聞いているとも知らず上司の悪口を言いまくりだった。おまけにゲーム内でも軽率で、簡単なトラップに引っかかりゲームオーバーになる。ゲームオーバーのペナルティーで武器や所持金を没収されたこともあり、黒川は白石をいじめることを誓った。

地道にわさびの盗難事件を調べていく一方、ゲーム内で宝探しを進めるうち、コロナは宝が隠されている部屋が一見鏡のように見えて実はガラスの向こうとこちらで同じ物が置いてあったというトラップに気が付く。それと同時に、黒川はわさびを盗んでいった犯人が仕掛けた「ライトをつけ、ハザードランプを点滅させる自動車」のトリックに気が付く。

盗難事件が起きたのと同じ状況……雨が降るなか白石を使ってトリックの実証実験を行った黒川は、自分の推理が正しいことを確信した。

 

トリックさえ見破れば消去法で犯人に行き着きました。現実の力関係は黒川>白石で、ゲーム内での自由奔放ぶりは白石>黒川ですね。お互いに悪口を言いつつも良いコンビな気がします。

田舎の刑事の魚と拳銃

営林署の職員が禁猟区で木に打ち込まれた銃弾を発見し通報した。黒川は白石、新たに部下になった赤木とともに現場に向かう。林の奥には人工湖がありバス釣り用の貸しボート小屋がある。またレストランも隣接しており、釣ったバスを湖に戻さず持ち帰ってもらうよう釣果に応じて賞を出していた。常連客に貸し出す用にクーラーボックスも用意されており、X・XLと書かれたほぼ見た目の大きさが同じものが棚に並んでおり、ボックスを固定するための枠がボートにはあった。

現在は警察によって封鎖されているが、明後日には大事な客がバス釣りにくるのでそれまでにどうにかしてほしいとレストランオーナーは言う。大事な客というのは鬼乃山産業という名の実質暴力団だった。鬼乃山は非常に警戒心が強く部下たちによって厳重に身辺を警護されている。オーナーは2年ほど前に雇い入れたボート小屋の管理人に彼らの対応を全て丸投げしていた。

今回見つかった弾丸と同じものが使われていた、違法な銃の取引事件が1つ見つかった。すでに倒産した玩具メーカーのモデルガンを改造したもので、改造・取引に鬼乃山産業が関わっていた疑いが高い。2代目の玩具メーカー社長はあまりにも精巧なモデルガンを作ったせいで売ることができず、大量の在庫を抱えて倒産、一家心中していた。鬼乃山産業は最初から改造することを前提に、メーカー社長を追い詰め売れないモデルガンを作らせたとされる。社長の鬼乃山には殺される理由があると知った黒川は、今回の銃弾は何者かが試し打ちをしたのだと考え、当時のモデルガンの改造・取引事件を詳しく調べ、事件の真相に至った。

 

犯人は厳重に守られている鬼乃山を確実に殺害する方法としてバス釣りを選び様々な仕掛けを施していました。だが動機もトリックも試し打ちも全てが黒川に見破られていると知り、自首しました。

田舎の刑事の危機とリベンジ

見晴らしと立地の良すぎるコンビニに3人組の強盗が押し入り、オーナーが持ち込んでいた大金とレジの金を盗もうとしたところに、風呂場の電球が切れているからと妻に命じられて買いに来た黒川が居合わせ、ちょっとした捕り物騒ぎの末、黒川は自由を拘束されてトイレに閉じ込められ、犯人グループは2人の従業員を人質に籠城した。

コンビニの駐車場は地元の盆踊りやちょっとしたイベントに利用されるため、外に向かってアナウンスできるスピーカーが付いておりバックヤードから操作できる。駆けつけた白石や課長が何とも締まらない交渉を犯人達と始める声を聴きながら、黒川はなんとか手の拘束を外そうと四苦八苦する。パソコン関係が苦手な課長は、コンビニが契約している警備会社から事件発生時の映像をビデオテープで取り寄せていた。犯人たちが銃でカメラを壊すまでの映像しか見えなかったが、非常に特徴的なデザインのフルフェイスのヘルメットをかぶっている犯人らが映っていた。

何とか拘束を解いた黒川がバリケードを壊してトイレから脱出した時、コンビニの外にはシャッターを閉め立てこもっている筈のヘルメット姿の犯人達が現れ、警察やマスコミの混乱のさなか車を奪って逃走していた。一か所しかない出入口を警察やマスコミが取り囲んでいる中、いったい犯人はどうやってコンビニから抜け出したのか。2人のコンビニ店員は眠らされており黒川はトイレに閉じ込めらていたため、犯人が脱出するところは誰も見ていない。

犯人と対峙したにもかかわらず倒されて閉じ込められるという不覚を取ったうえ妻にろくにお使いもできないと言われ、オンラインゲームのコサクこと白石から職場では黒川の悪口で盛り上がっていると嘘を吹き込まれて落ち込みつつも黒川は、目立ちすぎるヘルメット、警察官と名乗った自分をトイレに閉じ込めるだけという対応の甘さ、監視カメラを壊した手際の良さなどから、今回の脱出は手品のマジックと同じだと結論付け、犯人像を推理していった。

 

犯人グループは、脱出した後に派手に姿を現して逃走するというイリュージョンさながらの演出をしたせいで黒川に捕まるきっかけを作ってしまいました。

田舎の刑事の赤と黒

丸田という男が、病死した妻の残した遺産・ルビーがカラスに奪われたといい、賞金をかけ大々的にルビー探しを始めた。おかげで金目当ての有象無象が全国から町にやってきて、あちこちでカラスの巣を探しては問題を起こしている。その一つが黒川達が担当する小学校のトーテムポールが壊された事件だった。

その小学校の校庭には設置したばかりの鳥をモチーフにした青・黄・赤の3つのトーテムポールがあり、赤に登ってその上の木にあるカラスの巣を探ろうとしていた大学生が最上部の飾りである鳥の翼を壊したうえ自らも落っこちて負傷、動けなくなっていたところをちょうど現場を見ていた目撃者に通報され御用となった。目撃者はトーテムポールを制作した山吹という男で、自分の作ったトーテムポールを小学校に近い歩道橋から見ていたところ事件が起こったという。その後赤だけでなく青のトーテムポールの尾羽部分も破損しているのが見つかり、山吹は大学生が赤の前に青にも登っていたと証言したが、大学生は赤しか登っていないと断固否定した。事件後、赤と青のトーテムポールの上に木にあるカラスの巣は撤去された。

丸田夫妻の仲は悪く、生前の妻はルビーは丸田には渡さないと言っていたらしい。また彼女はカラスを手なづけており、今回ルビーを奪ったのもそのカラスだと丸田は話していた。女子大生のコロナから唆されたコサクこと白石が、何の証拠もなく丸田を犯人だと決めつけ連行したとして、丸田自身が不当逮捕だと怒り狂っている。白石のおかげで丸田と話がしやすくなった黒川は、謝罪ついでに事件について話を聞く。丸田は山吹のことを知っていた。山吹は妻の元婚約者だったが、妻が病気を患ったのを知り捨てたと憤っており今どこで何をしているのか知りたいと黒川に迫ってきた。

黒川は、カラスを口実に丸田が探そうとしているのは山吹ではないかと検討を付ける。山吹の証言に致命的なミスがあったことに気づいた黒川はそれを盾に山吹を追い詰め、彼が丸田の妻から頼まれてルビーをトーテムポール内に隠したことを白状させた。山吹としては、婚約破棄をした罪滅ぼしのつもりだったらしい。白石たちは妻はそこまでしてルビーを渡したくない程丸田を憎んでいたのかとしみじみする。

事件は落着した。帰宅した黒川が事件のことを妻に話して聞かせると、妻は、暴力的な手段も厭わない丸田が血眼で探すだろうルビーを、山吹の良心の呵責につけこんで隠させるなんて、丸太の奥さんはよほど山吹を恨んでいたのだろうと感想を述べた。

 

人によって事件の見方は変わりますが、黒川の妻の方が今回の事件の真相でした。亡くなった妻には不本意ですがルビーは丸田の手に渡り、黒川によって山吹の命は守られました。

田舎の刑事のウサギと猛毒

幼稚園の防犯教育のために、何でも屋の刑事課が交通ルール違反をするウサギ役を仰せつかり、刑事課はウサギや小道具づくりの工作教室と化していた。そこに東京から刑事の野呂がやってくる。追いかけていたストーカー男・井馬南司という男がこの町で交通事故を起こして死亡したというのだ。早速工作を放り出して現場へと向かった黒川達は、井馬の死は車ごと崖下に転落した自殺だと結論づける。転落箇所には何故か白米が大量に巻き散らかされており、米には満遍なく青酸カリがまぶされていた。その後、井馬が7か所の店で10kgずつ玄米を購入したことが分かる。現場にあったのはおよそ35kg。あと35kg分の青酸カリまみれの米が行方不明だった。

井馬はターゲットの女性の身辺を執拗に探り彼女の生活のほぼすべてを把握していたと思われる。女性は井馬が刑務所に入っている間にこの町に逃げてきたが、井馬は見つけておいかけてきた。その際、ターゲットの殺害を目論み古巣の研究所から青酸カリをひと瓶盗み出した。井馬の被害者は戸恵美奈、黒川達がウサギ役をやる幼稚園で事務員をしている女性だった。彼女の周囲一帯を警戒して調べたが青酸カリが仕込まれている物は見つからなかった。

黒川達の代役で急遽ウサギ役をすることになった黒川の妻は、女性同士という気安さを利用して美奈が自炊派で玄米を食べ、天然成分が入っている化粧品や歯磨き粉などを取り寄せているなどの健康オタクであることを報告する。東京では買わないといけない菖蒲や木酸酢、糠が、ここではすべて無料で手に入ると美奈は喜んでいるらしい。

井馬は、確実に美奈を殺せると踏んで先に自殺した。死んでしまった以上新たに仕掛けることはできないので、既に罠は張られておりターゲットが引っかかるのを待つだけの状況となっている。美奈の趣味嗜好を熟知している井馬はいったいどこに青酸カリを仕込んだのか。井馬が7つの店で購入したという米のレシートの控えを白石から引ったくった黒川は、その瞬間重大な事実に気づいた。時間がないので目的地に向かいながら説明するといい、運転手の白石を急かした。

 

美奈の殺害が目的でしょうが、井馬の取った手段は無差別ともいえる恐ろしいものでした。黒川達により危険は回避されました。

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初めは大人しい女性かと思っていた黒川の妻が、かなり強烈なキャラクターだというのが分かる1冊です。黒川家の家庭内の力関係は確実に妻>夫ですね。何だか気の毒ですが、妻に振り回されっぱなしの黒川の姿が面白いです。