滝田務雄『捕獲屋カメレオンの事件簿』あらすじとネタバレ感想

滝田務雄さんの「捕獲屋カメレオンの事件簿」のあらすじと感想をまとめました。

主役コンビが阿過沙汰菜(あかさたな)と浜谷良和(はまやらわ)、サブキャラの刑事が御小曾殿歩(おこそとのほ)なので、ふざけたコメディー寄りのライトミステリーかと思いつつ読みましたが、中身は結構真面目で普通に面白かったです。

登場人物の名前をもう少し真面目につけてくれたらもっといいのにと思います。もったいないです。

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「捕獲屋カメレオンの事件簿」書籍概要

元刑事でオカルト・ライターの浜谷良和は、脳の中に3Dプリンターを持つ。よろず捕獲がうたい文句の「オフィス・カメレオン」女社長阿過沙汰菜を助手に、都市伝説のような奇怪な現場を取材する。ふたりはそれらの真相ばかりか、背後に隠されている“本当に触れてはいけないもの”までも丸裸にしてしまい―凸凹コンビが人間の心の奥底に眠る業と悲哀を炙り出すミステリー。「BOOK」データベースより

  • 捕獲屋カメレオンの事件簿(2015年4月/祥伝社)

銀葉館のタブー

存在を知っている人がほぼいないオカルト系の雑誌「季刊パンプキン」で記事を書いているフリーライターで元刑事の浜谷良和は、シンデレラ出版の社長で編集長の諏訪院から「写真を撮ってはいけない絵」についての企画を提案される。写真を撮ってはいけないため誌面の構成が難しいと呟く浜谷に対し、社長はタブーを犯すのがオカルトの始まりだなどと嘯き、浜谷の手助けに生物・非生物を問わず捕獲するという捕獲屋「オフィス・カメレオン」に実体のないタブーの捕獲を依頼すると言う。

待ち合わせ場所に現れたのは機械オタクの小柄な女性・2代目社長の阿過沙汰菜だった。今回が初めての依頼だという沙汰菜に不安を覚えつつ絵の取材依頼をしてきた磯部葉子と面会することになる。葉子によると「写真を撮ってはいけない絵」は正確には「磯部葉子が見てはいけない絵」だという。絵は5年前に当時婚約者だった磯部綿彦から葉子への贈り物として制作されたもので、葉子自身の肖像画だった。葉子自身制作過程も完成した絵も見ているが、絵の完成直後、葉子に横恋慕して自殺した画家の悪霊が絵に憑いたとして以降綿彦が封印した。綿彦にアドバイスした霊能力者によると、絵を処分してはならず、絵を屋敷の外に持ち出してはならず、絵を画家の執着の対象だった葉子に見せてはいけないらしく、問題の絵は葉子夫妻の屋敷「銀葉館」の地下室で綿彦により厳重に保管されている。

画家の死は駐車場の車内で硫化水素ガスを発生させたことによるもので、当時は綿彦や葉子の関与も疑われたものの、死亡推定時刻には現場から一時間以上離れた銀葉館の近くにある祖父母宅にいたことから容疑は晴れていた。葉子は屋敷に籠って絵を見張り続けている夫の精神に限界を感じ、「絵のタブーの破棄」のため取材を依頼したのだった。

早速取材前の挨拶と称して銀葉館へと出向いた浜谷は、問題の地下室が撮影などが一切できないよう精度の高い金属探知機やガードマンなどのセキュリティーが施されていることを確認する。地下室を案内されたあと屋敷を辞した浜谷は、金属を使わないカメラが必要だとして沙汰菜にある物の制作を頼み、自分の能力と合わせたあるプランを実行することにした。浜谷は脳の突然変異で、三次元空間上の物体の形状や配置、大きさや距離を座標として記憶し正確に再現できるのだ。その能力を使い、バレないよう絵を一発でベストポジションで撮影するテストを行い、沙汰菜をイラストレーターとして伴い銀葉館に乗り込んだ。地下室は殺風景さを和らげるためか黒い葉のレリーフがいくつか埋め込まれている。肖像画のイラストを描く沙汰菜へと綿彦たちの意識を向けている間に肖像画を撮影をしようと目論んでいた浜谷は、沙汰菜が何気なく口にした言葉からあることに気づき、撮影対象を変更した。

取材の数日後、オフィス・カメレオンの初代社長が諏訪院で、沙汰菜が諏訪院の娘だと突き止めた浜谷は、カメレオンの会長である諏訪院に地下室で撮った物を見せる。黒い葉のレリーフがついた壁の写真に失敗だと嘆く諏訪院に対し、浜谷はこれこそが銀葉館の真のタブーだと言い切った。

 

5年前の画家の死の真相が銀葉館の地下室に隠されていたのが、元刑事の浜谷の推理で明らかになりました。この事件を解決(捕獲)したことで、浜谷はライターをしつつ正式にオフィス・カメレオンの社員になることになりました。

美食家の葡萄酒

オカルト雑誌なのにワイン特集をすることになったとしたたかに酔っ払った諏訪院に呼び出された浜谷は、食通でワインの本も出している樹夏屋からカメレオンに依頼があったことを知らされる。樹夏屋の入院先へと沙汰菜とともに向かった浜谷は「ワインの捕獲」を依頼される。樹夏屋は昨年、オーナーをしていた飲食店が食中毒を出して潰れ、被害者への賠償や店の借金のため秘蔵のワインコレクションをオークションにかけて手放した。そのうちの一つ、最高のワインが郷田という男に買い取られてしまった。借金を返済し手元にいくばくかの金が残った樹夏屋は、倍額を出すのでワインを買い戻したいと郷田に頼み込んだものの、樹夏屋を憎み対抗心を燃やしている郷田が応じることはなかった。ワインを買った以上どうするかは郷田の自由ではないかという浜谷に対し、樹夏屋はワインを取り戻したいわけではない、郷田の口に入らないようにしてさえくれればいいと言う。樹夏屋からの依頼条件はデッド・オア・アライブ(生死を問わず)、事情を聞いた浜谷は依頼を引き受けることにした。

ワインの取材の挨拶と称して郷田の家へと行った浜谷は、郷田が昔樹夏屋の下で働いておりそこで散々いびられるという屈辱を味わったことから、あの当時の事を思い出すと側にあったガラスの花瓶を床に叩きつけるほどの怒りに駆られるのを目の当たりにした。問題のワインは、ワイン倉庫の中でも特に厳重に保管されており、指紋認証式の黒い金属製の檻の中に一本だけ横たわっていた。樹夏屋の頼みを断ったあたりから樹夏屋に雇われたと思われるチンピラたちの不法侵入が続くため守りを厳重にしたらしい。

本番の取材の後にワインが無くなれば、浜谷たちが盗ったのがバレバレになるという沙汰菜に対し、浜谷は彼女にガラス製のある物を作って欲しいと頼む。郷田が激昂して壊した花瓶だった。それといくつかの小道具を手にした浜谷は、撮影スタッフとして沙汰菜を伴い、郷田家へと乗り込んだ。

 

今回の依頼はデッド・オア・アライブだったため、檻の中のワインを華麗に盗むというルパンのような行動はとりませんでした。家政婦(に扮したプロのガードマン)と郷田の監視のなか、さりげなく彼らの行動を誘導していく過程が見事でした。最後の最後でデッド・オア・アライブの理由が判明するのも面白かったです。

ソラマメ銀座の幽霊

公休日、捜査三課の女刑事・御小曾殿歩は、ソラマメ銀座と呼ばれる商店街で日用品や仕事用の靴などを買って過ごしていた。夕食の時間が近づいた頃、突然商店街の一角で怒号が響き渡る。駆け付けると、鼠色のスーツ姿の男が二人組のチンピラ風の大男たちに車の中に連れ込まれようとしているところだった。殿歩が間に割って入ると隙を見てスーツの男は逃げ出し、チンピラたちもまた逃走していった。殿歩は事情を聞こうとスーツの男を探したが、結局見つからず仕舞いだった。

一週間後、上司の読んでいたスポーツ新聞に「ソラマメ銀座の幽霊」という見出しをみつける。気になって新聞を買って読んでみると誘拐未遂の翌日と翌々日の2回、夕暮れ時の廃ビルの屋上に頭に布袋を被った鼠色のスーツを着た人物が現れ、日が暮れるまでの短い期間佇んでいるというものだった。鼠色のスーツが気になった殿歩は、帰宅前にソラマメ銀座へ寄ってみることにした。

夕暮れ時のソラマメ銀座で浜谷は幽霊騒動の聞き込みをしていた。そこで幽霊出没前に誘拐未遂事件が起こったことを耳にし詳しい話を聞いて回るうち、現場に現れたという女刑事の存在を知る。殿歩は、浜谷の捜査一課時代の同僚だった。殿歩と再会した浜谷は誘拐未遂事件と幽霊騒ぎの関係を聞こうとするがノーコメントを貫かれ、食事に誘うものの殿歩が持っている情報が欲しいだけと下心を指摘され振られてしまう。

浜谷と別れた直後、屋上に幽霊が出たと騒ぎが起きた。問題の廃ビルへ行くと野次馬の中に浜谷を見つける。廃ビルといえど許可がないと入れないという殿歩を言いくるめ、浜屋と殿歩は幽霊が姿を消した直後の廃ビルへと侵入した。ビルは厳重に施錠されており、幽霊騒ぎが起こった後肝試しにと侵入した人間がいたのか窓ガラスが割られていたが、板を打ち付けられ入れなくなっている。周囲を調べた浜谷と殿歩は、トタンの看板を立てかけて隠してあった大きな窓ガラスを見つける。鍵は掛かっておらずそこから侵入すると、中は半地下の構造だったらしく、浜谷たちの1m以上頭上に窓ガラスが見える。半地下の空間には出入口となる鉄製の扉がついていたが、サムターン錠が内側(半地下の空間)から閉められていた。外側(廊下)からは鍵がなければ施錠も開錠もできない。廃ビルへの唯一の出入り口である半地下の空間の扉が施錠されているということは、建物内には誰もいない=幽霊もいないと結論づけた2人は廃ビルを出ることにした。窓ガラスまでは浜谷が殿歩を肩車し、脱出した殿歩が浜谷のスーツをロープ代わりに垂らすという方法を使った。オーダーメイドだという浜谷のスーツには、殿歩の足型がくっきりと残った。

その日の深夜、依頼人と密会していた浜谷は現場を殿歩に押さえられてしまう。幽霊騒動を起こしたのは浜谷たちカメレオンだった。その一連の騒動の理由と目的を、他の多くの刑事よりも浜谷が信頼しているという殿歩が解き明かしていった。

 

誘拐未遂事件と幽霊騒動が綺麗につながり、最後にちょっと気の毒なオチが待っていました。主人公サイドが敗北する(トリックを解かれる)という珍しい展開でした。

試作車の鍵

シンデレラ出版に呼び出された良和は、編集長の諏訪院からカメレオンの仕事「試作中の自動車の鍵」の捕獲の話をされる。恭明大学工学部の熊上教授の研究室から、市販されている電気自動車よりはるかに効率の良い新型モーターを搭載した自動車の鍵が盗まれた。2日前、工学部の研究棟で侵入者を感知したと警報装置が作動したため当直の警備員の宇津と東山がかけつけ、熊上教授の部屋から人影が出てくるのを確認した。不審者は廊下の非常口から外へと走って逃げたもののすぐに倒れてしまう。駆け寄った警備員たちは浮浪者風の男の脈が止まっているのを確認した。心筋梗塞による病死で、男の身元は住所不定無職の窃盗常習犯だとのちに判明した。男は研究室の合鍵を所持しており研究室から試作車の鍵が紛失していたが、男の遺体からは鍵は見つからず、鍵以外の盗難被害はなかった。熊上教授を慕う学生らがカンパをし、カメレオンへと依頼したらしい。

早速大学へと向かった良和は、正門そばの警備員詰所で宇津と話をする機会を得る。彼によると、不審者が教授の研究室を出て以降ずっと視界にとらえており見失ったことはないという。先に大学に着いているという沙汰菜の元へとのんびりと向かっている最中、良和は殿歩と出くわす。病死した不審者についての確認作業らしい。殿歩との会話で、実行犯は病死した男だが、男に指示した黒幕がおり、その人物こそが合鍵を複製した=大学の関係者だと確認する。

ようやく探し当てた沙汰菜は、学生の中に高校時代に自分を慕っていた後輩がいたらしく、先輩風を吹かせて金属板の工作技術を指導していた。沙汰菜によると熊上教授は一昔前に機械の仕組みをわかりやすく教える子ども向け番組に出演しており、それを見て育った世代の学生に非常に人気がある一方、テレビのおかげで教授になれた等と揶揄する声もあり本人の性格も相俟って大学側からの評判はあまり良くなかった。また教授は現在北海道に出張中で、研究室の鍵は借りられるが試作車のあるガレージには入る許可が貰えないらしい。

研究室の鍵を借りるため警備員室へと向かった良和と沙汰菜は、東山と揉めている男の姿を目撃する。東山によると侵入した男以外の人物はいなかったらしい。揉めていた男は熊上の研究に出資している帝国自動車の喜多と名乗り、上司に報告するため試作車を見に来たがガレージの鍵を借りられず揉めていたのだという。なぜ犯人は試作車の鍵を盗む時、一緒にガレージの鍵も盗まなかったのかという良和の疑問に沙汰菜と喜多も考え込んでいると、沙汰菜の後輩の学生がやってきて喜多を追い返した。後輩によると喜多は熊上を敵視している教授のスパイで、一か月前に担当が変わってやって来て以降、出資額を減らしたりテスト結果にケチをつけたりと帝国自動車が研究から手を引くよう動いているらしい。良和は、後輩から先ほど加工していた新型モーターに使っている新素材の金属板の感想を求められた沙汰菜が、いぶかしげな表情のあと不自然な笑みを浮かべてそつなく答えているのが気になった。

突然火災報知器が鳴り響きガレージから出火しているのが分かった。設置しているスプリンクラーも何者かが手を加え作動していない。研究室へ向かいながら良和が先ほどの表情の理由を沙汰菜に尋ねると、新素材にしては工作中に手に伝わる強度が決定的に足りなかったと答えた。熊上の研究室に到着した良和は、死んだ男の本当の目的は試作車の鍵を盗むことではなく隠すことで、試作車の鍵はこの部屋の中にあるといい探し始めた。

 

推理力を働かせて何とか鍵を見つけ危機一髪でガレージの出火から車を守りました。沙汰菜の金属板に対する感想から一連の事件の真実を見抜き、黒幕の正体と目的に行き着くという王道な推理ものでした。

白い首輪の黒い猫

夜、ある住宅街にある一軒家を良和は一人で訪問した。出てきた住人に代理人の便利屋だと名乗ると、インターネットで注文した品を受け取りに来たと話す。完成品の性能を確認したいから家の中に入れて欲しいという良和に、男はオリジナルの電子ロックやスタンガンを見せ用心しながら室内に招き入れた。

2日後、班長の伏見とともに住宅街を歩いていた殿歩は、いつも緑色の作業着を着ているのに沙汰菜が白いジャンパー姿で歩いているのを見つける。何をしているのか尋ねると、迷子の猫探しだという。黒猫で目の色は黄色、白の首輪など特徴の書かれたメモを片手にこの近隣を捜索中で、良和は猫探しを沙汰菜に押し付けて自分は雑誌の原稿を書いているらしい。沙汰菜と別れた殿歩は、自分たちに会って「何か事件ですか?」と質問をしなかった彼女の言動をあやしいと口にするが、伏見からは考え過ぎだと一蹴された。

殿歩たちは近頃相次いでいる連続盗難事件を追っていた。被害総額は一千万近く、防犯装置の弱点や盲点を突いて犯行が行われていたが、つい先日、匿名で早田という男の犯行だと言う情報提供があった。早田は元大手電子機器メーカーのエンジニアで、その技術を使いカードキーの偽造や警備装置の解除をしたと考えられる。現在は電子機器の製作代行などで生活しているらしい。早田家まで来た殿歩と伏見は、がっつりと警備用の機器がつけられているのを目にする。玄関に猫用の出入口がついているのを見つけた直後、背後からやってきた黒猫が玄関ドアに付けられた猫用ドアへと歩いていくと、センサーが作動し猫用ドアが開いた。もしや沙汰菜の探している黒猫ではと殿歩が確認すると、首輪の色は白ではなく赤かった。

早田家から少し離れた家で小さな子どもを庭先で遊ばせている若い母親を見つけ、不審者を見たことはないかと声を掛ける。変な人なら今さっき見たというので詳しく聞くと、緑色の服の小柄な女性だという。おそらく猫を探してあちこち覗き込みながら歩いているだろう沙汰菜の事だった。この家でも猫を飼っているらしく、首輪に反応して開く猫用ドアを付けているという。同じメーカーの首輪をしていると別の家のドアでも開いてしまうらしく、一度飼い猫が別の家に入りトラブルになったが、相手先の飼い主が首輪の色を白から赤に変えて以降は同様の事は起きていない。おそらく早田の飼い猫のことだろうと尋ねると、早田が首輪を変えたのは半年位前らしい。また白い首輪の黒猫は近所にはおらず、黒猫といえば早田家の赤い首輪の猫一匹だけと母親は証言した。

同時刻、沙汰菜は電話で良和と連絡を取り合っていた。殿歩たちと会ったが猫探しだと胡麻化したことを報告する。沙汰菜と良和の本当の目的は、早田が自作した強固なセキュリティーを突破することだった。その鍵になるのが黒猫がつけている白い首輪だった。なかなか見つからないとぼやくものの、沙汰菜は機械オタクならではの思考で早田の考えを推理し、見事白い首輪を手に入れる。そして良和が便利屋を装って事前に手に入れた早田家の室内の空間把握と、沙汰菜が手を加えたラジコンヘリを使い、早田の留守を狙いみごと警備装置を停止させた。早田家に侵入した2人の狙いは、今回の依頼である捕獲対象「猫用ベッド」だった。その頃早田は、警察の尾行に気づかずビルに侵入して盗みを働こうとしたところを取り押さえられ逮捕された。

翌日、殿歩は例の聞き込みの最中にある重大な見落としをしていたことに気が付いたが、今更証拠はなく記憶違いで済まされてしまうだろうと結論づけた。一方良和は依頼人に仕事の成功を報告したあと、沙汰菜に今回の依頼の全容を話して聞かせた。

 

依頼→実行という今までの流れとは逆で、実行→依頼内容が明らかにという流れの短編でした。地味で手間暇のかかる根気の必要な依頼でしたが、その裏に隠されていた事実は割と生々しいものでした。

前日譚 夜行奇人

ある日、電車への飛び込み自殺があり、遺留品や指紋から自殺したのは劇作家の千堂という男だと判明した。

一方、警視庁では殿歩が警察を辞めるという良和を引き留めていたが、良和が翻意する気配はない。そこへ先輩刑事の伏見らが頭を金色に染めた見知らぬ老人を伴ってやってくると、千堂が自殺したことを告げる。金色の髪の初老の男はシンデレラ出版の社長の諏訪院だと名乗ると良和の子守を頼まれたと嘯き、銀行強盗事件のミスで謹慎中のため事件が追えず無理をすれば上司や仲間に迷惑がかかると刑事を辞めて独力で事件を追うつもりの良和にくっついてきた。

5日前、良和は海岸沿いの崖に建つ二階建ての古びた洋館にいた。女優の香苗、音響や特殊効果担当の根岸、若手劇作家の中財の3人が、二階のベランダで再来週に開かれる千堂の誕生祝のためのミステリーの寸劇の打ち合わせやテストを行っていた。千堂自身、還暦祝いに全く乗り気ではない様子だが周囲の顔を立てて開催するらしく、3人は半分遊びだと思って気楽にやろうなどと話し合っていた。そこに千堂の一人娘、朱音がお茶を煎れるとやってくる。朱音は良和が刑事で実際に起きた殺人事件等を千堂の参考のために話していると紹介すると、警察嫌いの千堂が珍しいと全員が一様に驚いた。その後部屋を出た良和は、朱音に「夜行奇人」のことを3人には話していないのかと尋ねると父親から口止めされていると返ってくる。そして父親の千堂からの伝言である、良和には千堂の書斎で待ってもらうように告げるが、そのタイミングで非番である良和の携帯に銀行強盗が発生したという連絡が入った。

助手席に諏訪院を乗せ千堂の館へと向かう良和は、千堂が自らの戯曲「夜行奇人」を名乗る人物から脅迫の手紙を受け取っていたことを話す。千堂は3人のうちの誰かが犯人だと考え、還暦祝いの打ち合わせという名目で館に呼び寄せた。そして良和が銀行強盗で館を留守をしていた間に事件が起きた。5日前の午後6時、千堂の館から火災が発生し火元の地下室付近を中心に半分が焼き尽くされた。香苗、根岸、中財の3人は無事避難できたが、朱音は地下室から遺体で発見された。火事に気付いた朱音が消火のために地下室へ行き煙に巻かれて焼死したと考えられたが、彼女の死因は溺死だと判明した。千堂の証言から地下室を通る水道管が水漏れし、脛の深さまで水が溜まっていたこと、以前から劇場用のスポットライトをコンセントに繋いで照明にしていたことが分かる。経年劣化で銅線がむき出しになったコードが水に浸かっていたため、地下室に来た朱音が証明のスイッチを入れたと同時に感電して気絶、そのまま溜まった水で溺れたと警察は考えた。事故説で落ち着きそうだが、夜行奇人の件もあり殺人説も捨てきれないと良和は考えていた。

3人は今回初めて千堂の館を訪れており、水の溜まった地下室に漏電の罠を仕掛けるという予備知識を持っていなかった。話を聞き一つ一つ可能性を潰していった諏訪院は、犯人は千堂ではないかと口にする。朱音を道連れにした心中説だ。だが心中するのに遠隔操作は必要ないと良和に一蹴される。厚い雲に覆われた暗闇のなか館に到着した良和は、空間把握能力で地下室へと向かい壁にあるものを見つけた。そして諏訪院に時間を尋ねるとまずいかもしれないと呟く。夕方のニュースと言うと館の外へと走り出した。

 

夜行奇人の正体、地下室の漏電の罠、館に火を付けた人物、千堂の自殺とあれこれ入り混じってややこしい見た目になっていますが、本当の目的は全く別の所にありました。良和が刑事を辞めるきっかけになった事件と沙汰菜が電車に乗れなくなったトラウマが明らかになる回でした。

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これ1冊のみでシリーズ化していないようです。どの短編にも結構こまかく伏線がちりばめられていて面白かったので続編があってもよさそうなのですが、残念です。