滝田務雄『和気有町屋南部署 デカは死ななきゃ治らない』あらすじとネタバレ感想

滝田務雄さんの「和気有町屋南部署 デカは死ななきゃ治らない」のあらすじと感想をまとめました。

和気有町屋南部署は「わけありまち・やみなべしょ」と読みます。タイトルからしてコメディ色が強く、中身も刑事物でありつつも特殊設定の警察署が舞台という推理<キャラといった雰囲気の一冊でした。

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「和気有町屋南部署 デカは死ななきゃ治らない」書籍概要

目覚めたら、記憶がなかった。所持していた身分証では沖手範丞という名前で、刑事課課長らしい。部下に聞くと、ここ和気有町は、ぼくの曾祖父である名探偵が、犯罪に関わった人たちを集めて造った町。たしかに、ぼくにストーカーする巡査、対人恐怖症の刑事など、変なヤツらばかりだ。わけもわからぬ最中に一人の刑事が殺された…。犯人は誰だ?いや、そもそもぼくを殴ったのは、誰なんだ!「BOOK」データベースより

  • 和気有町屋南部署 デカは死ななきゃ治らない(2014年8月/徳間文庫)

目を覚ましたら記憶がない

休憩室のような畳敷きの部屋で後頭部の鈍痛とともに目を覚ました沖手は、自分が何者であるのか記憶を失っていた。スーツのポケットに入っていた警察手帳から自分が屋南部署の刑事課の課長であることが分かった。コンビニの袋を下げた初老の男が部屋に入ってきたので記憶喪失になったことを告げると、自分は課長補佐の幸嶋だという。幸嶋は、花火大会の事故で警察署が火事になったため取り壊しが決まっている古い公民館に臨時で刑事課の機能を移したばかりだという。沖手は目覚めた時、カーテンが体に絡みつくように覆いかぶさっていたことから、後頭部に衝撃を受けた時とっさにカーテンを掴んだのだろうと考えた。だが近くには頭をぶつけそうなものはなく、自分は何者かによって記憶が飛ぶほど殴られたと推理した。また仮とはいえ刑事課の建物内で起こったことから犯人は刑事課の人間ではないかと考え、怪しい人物がいないか幸嶋に尋ねると、心当たりはありすぎると返ってきた。幸嶋によると屋南部という場所は異形の町だという。

沖手の曽祖父の沖手千貫は、戦前戦中の軍需産業隆盛期に沖手重工で莫大な財を成した。だが工業都市として発展した裏で治安が悪化し様々な犯罪が生まれることになった。沖手重工は町の治安を守るために探偵社を立ち上げ千貫が陣頭指揮を執った。戦後に沖手重工が経営破綻してからも探偵社は規模を拡大し続け、警察から捜査協力を要請されるまでになった。千貫は名探偵として自分が解決してきた数多くの事件の関係者ら(被害者遺族、加害者家族、刑期を終えた犯人など)を探偵社で優先的に採用したため、屋南部町には恩讐を超えた人々が集まることとなる。千貫は死去前に探偵社を解散したものの、行き場を失った人々を警察官として再就職させた。沖手家の人間は屋南部署の要職に就くことが習わしだという私物化した署には、特殊技能と前科者というすでに一線を超えた人材が刑事として働いている。つまり刑事課の人間は全員が問題児であり、課長である沖手を殴ってもおかしくはないと幸嶋は言った。またこの町は、未遂も含めた暴行傷害事件と殺人事件を除いては、屋南部署の管轄で起きた事件は本庁の介入無用という取り決めもされている無法地帯だった。千貫を知っている老人らを中心に、町には今でも沖手千貫を盲目的に崇拝する層がいる。

千貫存命時の最後の相棒で、沖手の家庭教師的存在だという幸嶋をともない、沖手は休憩室を出ると刑事課の部屋へと向かった。紅一点だという根手仁美巡査は、自分の事を沖手の恋人だと言ったが、幸嶋によると最凶最悪の問題児で、自宅への不法侵入、盗撮行為、私物の窃盗、執拗なセクハラ行為など、沖手に対する常軌を逸したストーカーだという。今も沖手に貼りつく力は尋常ではなく、2人がかりでようやく引きはがせるほどの力だった。また極度の対人恐怖症だという鰻野という男が天井裏にいるらしい。身を隠していれば普通に話ができるが、人前に出ると卒倒してしまうらしい。

昨日は刑事課の引越し日で全員で作業を行い、解散したのは午前3時だった。今日は幸嶋、仁美、鰻野、沖手の4人が勤務だという。隠れられそうな場所は全部把握しているという鰻野によると、外部からの侵入者が建物内に隠れている可能性はないらしい。また仁美からの求愛行動から沖手が逃亡するのは日常的だったため、沖手が姿を消した時は探さないのが暗黙の了解となっていた。今回沖手が昏倒していた間も、仁美は「課長は帰ったから諦めて仕事をしていろ」と言われていたらしい。嘘をついたのは刑事の虎鉄だった。当時の状況を確認すると、鰻野は天井裏で寝ており、幸嶋、仁美は入れ替わり刑事課から席を外している。また鰻野は夜食に出されたおにぎりとお茶を食べた後強烈の眠気に襲われたという。お茶を用意したのも虎鉄だった。だが肝心の虎鉄は、彼のトレードマークだという純白の生地に戦う龍虎が刺繍がされている派手なコート着で、納戸の中で血まみれで死んでいた。そばに落ちていたバールで滅多打ちにされていた。

本庁から仔山刑事と飴野刑事がやってくると、沖手の記憶喪失は狂言であり虎鉄殺害の重要参考人だと言いだす。虎鉄の最後の携帯電話の着信が沖手からだったのと派手なコートに沖手の指紋が大量に付着していたのが根拠のらしいが、そうなると、沖手は虎鉄を1階の納戸に携帯で呼び出して殺害し隠したのち、着信の履歴を消さないまま2階に移動して気絶したことになる。容疑者だと疑う仔山に反論しているうち、沖手は飴野が本庁の情報を流す草(スパイ)だと分かった。飴野の正体は屋南部署の刑事にも内緒なのだという。

今までの情報を全て組み合わせた時、沖手には自分が襲われた事件、虎鉄が殺害された事件も全て同一犯によるものだと分かり、犯人と対峙することになった。

 

犯行に至る経緯や動機など理論的に事件が解かれるわけですが、屋南部署の特殊設定と奇抜なキャラ達のおかげでシリアスな雰囲気には全然なっていません。犯人は自殺し、刑事課で保管していた探偵社の捜査資料が盗まれました。

お前のそれはパンダじゃない

屋南部の町に巣食う闇と対決するため、沖手の希望により屋南部とはしがらみのない人間として新人刑事の十並が屋南部署に配属された。刑事課のソファの中に隠れていて声だけしか聞こえない鰻野に屋南部署の特殊性を聞いていたところ、白塗りに黒い模様のメイクをした怪人に追われ血相を変えた沖手が刑事課に飛び込んできた。怪人はパンダメイクをしたという沖手のストーカー刑事・仁美だった。仁美はストーカー行為のおかげで開錠と侵入技術に一段と磨きがかかったという。

沖手は虎鉄殺害と沖手襲撃事件により、沖手千貫の後継者である自分を排除(殺害)してこの町を乗っ取ろうという者がいることを知り、その者と協力者らに部下の刑事らと立ち向かうため十並を呼び寄せた。先だっての事件時に紛失した資料は未だ見つかっていない。記憶を取り戻した沖手によると、盗まれた捜査資料は殺人、詐欺、盗難、傷害と多岐に渡っており共通点はない。本来犯人は資料を偽の書類とすり替える予定だったことから、沖手は刑事兼現役の詐欺師の鷺ノ宮から、捜査資料の偽造が可能な人物として元探偵社の人間で豆菓子店「出島屋」のお虎婆さんの存在を聞き出す。その近所で捜査中だった仁美を先着させ、沖手と十並も出島屋へ向かう。出島屋はシャッターは開いているもののガラス戸は閉まっており人の気配はしない。鷺ノ宮に呼ばれ裏手の自宅玄関前に行くと鷺ノ宮だけで仁美はまだ来ていないという。虎婆は一週間の旅行中で留守だったが、義理の息子が間もなくやってきて鍵を開けてくれるという。メールで旅立つと連絡があっただけなので、どこを旅行しているのかは息子も知らないらしい。先に来ている筈の仁美がいないのを、沖手は勝手に表のシャッターを開け、開錠して侵入しているのではないかと疑った。表に回り扉を確認すると鍵は掛かっていなかった。息子の到着を待たず、3人は出島屋へと入っていった。

大型の業務用冷蔵庫のそばに豆菓子の段ボール箱が積まれているのを目にした沖手は、要冷蔵と書かれた箱が冷蔵庫の外にあることから、冷蔵庫内には別の何かが入っていると検討をつける。庫内には息絶えた虎婆がいた。状況からみて冷蔵庫内に押し込められたのち首を刺されたものと思われる。殺害されたのは息子にメールが送られた3日前だと考えられた。店のシャッターが開いているのはおかしいと呟きながらパンダメイクのままの仁美が姿を現した。その後虎婆の息子が到着する。勝手に店に入った言い訳としパンダの怪人が出たための緊急措置だと手書きのイラスト付きで説明した沖手は、塗りのきついメイクをした不審者を見なかった尋ねたが息子はそんな変な白塗りの人間は見ていないと返した。虎婆が殺害されていたことを息子に話した沖手は、息子との会話の中から矛盾点を見つけ出すと、本当は今よりももっと早く出島屋に到着していたのではないかと問い質す。

息子は本当は8日前に虎婆から連絡があり「自分と長期間連絡が取れなくなったり警察が店を調べに来るようなら、隠してある書類を回収して処分してほしい」と頼まれていたため、急いで書類の処分に来たことを認めた。息子は書類を隠したことは認めたが、虎婆が殺されていたことは知らなかった。事件の主導は本庁に移り息子も本庁へと連れて行かれたが、釈放された直後、本庁のトイレで他殺体となって発見された。

沖手は虎婆の元から回収した資料(過去の事件)の中に、今回虎婆が冷蔵庫に押し込められて殺害されたのと類似の事件があったことを知る。また虎鉄殺害や沖手襲撃と同様の事件も過去に起きていた。資料を盗んだ犯人の目的は、事件を模倣するためだと沖手は考えた。

ジジイが宝をあきらめない

課長の沖手が招集したにも関わらず捜査会議に集まったのはいつもの声だけの鰻野と十並だけだった。一連の事件の黒幕について、鰻野のアイデアで千貫のことを良く知る人物に話を聞くことになり、仁美の祖父・根手安民に白羽の矢が立った。安民は怪盗サタン魔人として千貫と対立していた人物なので、千貫の不利益になるようなことは喋らないだろう町の住民たちよりは素直な話が聞けるはずだという。公然の秘密となっているもののサタン魔人は正体を秘密にしているため容易に姿を現さないらしい。沖手は勝手な周囲のおぜん立てによってなぜかサタン魔人と対決し、沖手が勝てば千貫について話をするという事になってしまった。

和気有博物館の特別展示室にある宝石をサタン魔人が博物館の敷地外に持ち出せばサタン魔人の勝ち、サタン魔人が諦めるか盗んだあとに逮捕して宝石を展示室に戻すことができたら沖手の勝ちというルールになった。サタン魔人が勝てば、ストーカーの仁美をアルゼンチンに連れて行ってくれるとあって最初から勝つ気のない沖手は、十並らにサタン魔人は高齢なのでケガをしないように注意して盗みに入っても見て見ぬふりをするよう言いつける。サタン魔人によるトリックを見抜き残念ながら勝負に勝ってしまった沖手は、安民から千貫の死後、彼を慕う元犯罪者の住民らの一部が、名探偵沖手千貫を渇望するあまり自分たちの手で沖手千貫を作り出そうとしていることを聞く。

彼らはベースとなる人間にできる限り千貫をコピーさせるべく、千貫の手掛けた事件を犯人側から追体験をさせているというのだ。安民は、町が出している千貫の伝記から抹消されている半年間の空白を調べてみてはどうかと言った。

ここだけ茶番があまりない

火事で焼けた屋南部署の建て替え工事が終わり竣工式の日が来た。だが沖手と十並は、千貫の伝記の作者・鋳茨に会うため式典をすっぽかす。鋳茨は孤児として施設で育ち、現在は高校の化学教師をしている。だが沖手らが鋳茨のマンションに着いた時人だかりができていた。人が飛び降りたのだという。落ちたのは6階に住む鋳茨だった。急いで屋南部署と本庁に連絡を取ったが、屋南部署の刑事は全員が式典後の懇親会でのタダ飯タダ酒に目がくらんでおり来るのは遅くなるという。沖手は、鋳茨が自分たちが到着するタイミングに合わせて飛び降りたと考えた。つけっぱなしの鋳茨のパソコンには、「沖手千貫伝記・零章」とあり裏側の伝記だと書かれた文章が残されていた。

施設で育ち13歳になった鋳茨はあるテストを受けさせられたのち、千貫と相棒の幸嶋から「千貫の後継者」に指名された。千貫が無理やり刑事課にねじ込んだ探偵社の元調査員たちが千貫の死後に警察組織によって潰されないよう、カリスマ性を持った人物(千貫の後継者)が必要だったためだ。密かに千貫の内弟子になった鋳茨の役目は、屋南部署の刑事課に瓦解の兆候が表れた時に限られるが、千貫の死後も刑事課は警察組織との致命的な対立はなく鋳茨の出番がないまま。そして沖手が課長に収まり増々鋳茨の出番はなくなった。沖手は優秀だったが、「名探偵」に興味はなく「刑事」であろうとしている。それでは千貫を信望する人間たちの渇望が癒えることはない。

一見鋳茨が書いたような伝記だったが、部屋に残る違和感から、沖手は本当の作者は鋳茨ではないと考えた。そして鋳茨は影武者であり、本物の後継者は別にいると十並に言う。そんな時、沖手のもとに武装した老人たちが新しくなった警察署に乗り込み、タダ飯タダ酒で自滅した刑事課の連中を全員人質にとったと連絡が入った。2人は急いで警察署に戻ることになった。

デカは死ななきゃ治らない

警察署にはすでに本庁からの刑事やマスコミが押し寄せていた。スパイの飴野によると、懇親会に参加しようとした仔山も人質になっているという。一部の勇気あるマスコミを引き連れ警察署内に入った沖手は、立てこもっている老人たちにスクープを狙って勇んでいるマスコミをけしかけバリケードを突破すると黒幕を探し始めた。

取材をしていたマスコミによると老人たちが消えたという。千貫存命時の輝きを取り戻そうと警察署からの「犯人消失」を目論んでいるらしい。食事に睡眠薬を盛られて動けなくなっていた鷺ノ宮によると、老人たちは仔山を人質に逃げて行ったという。廊下の段ボール箱の中で倒れていた鰻野から話を聞き、老人たちが刑事課へ向かったことを知った沖手も刑事課へと向かう。老人たちのリーダーから署長室への呼び出しを受け沖手と十並が行くと、リーダー格の老人が羽交い絞めにしていた仔山を突き飛ばし、手にしていた拳銃をいきなり自分の口の中に突っ込むと引き金を引いた。鮮血が飛び散り老人は即死、突然のことに十並もそばにいた仔山も驚きへたり込んだ。だが沖手だけは悠然としている。そして、これは犯人側の仕組んだ「死体消失」トリックの一部であり、拳銃自殺は空砲による狂言の予定が黒幕によって実弾が発射されるように仕組まれていたという。沖手は、自殺だと考えられている鋳茨や他の事件もすべて黒幕による殺人だと説明を始めた。

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黒幕を追い詰めたところで話が終わりました。後日談的なものがないので、唐突な感じは否めません。

一つ一つはちゃんとした推理なのですが、なにぶん設定が奇抜すぎて正直あまり推理の方に目がいきませんでした。怪盗サタン魔人の回が一番面白かったです。