滝田務雄『ワースト・インプレッション』あらすじとネタバレ感想

滝田務雄さんの「ワースト・インプレッション」のあらすじと感想をまとめました。

2人のキャリア刑事がどつき漫才のようなものを繰り広げながら事件を真面目に解決する短編集です。主役2人の名前はいまいち受け付けませんでしたが、最終的にはそれが気にならなくなるくらい面白かったです。

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「ワースト・インプレッション 刑事・理恩と拾得の事件簿」書籍概要

始末書を乱発している若き刑事・畑山理恩。捜査本部長に減らず口を叩いたり、異常な食い意地で騒動を起こしたり、出かけるたびに迷子になったり…。だが推理だけは超一流!理恩をバカ扱いする部下の寒山拾得とともに、タレント歌人の失踪、大学教授の怪死といった4つの難事件に立ち向かう。笑いはたっぷり、謎解きはしっかり。この味はクセになる! 「BOOK」データベースより

  • ワースト・インプレッション 刑事・理恩と拾得の事件簿(2014年1月/双葉社)
  • ワースト・インプレッション 刑事・理恩と拾得の事件簿(2017年12月/双葉文庫)

歌人薄命

完成したばかりのホテル別館の特別室に、初めての宿泊客・人気の女流歌人の星流ミオヤこと越谷美弥と、本館に泊まるマネージャーの有民寛一がいた。2人は表向きとは逆の関係で、美弥が実務をこなし有民が短歌や書を作っていた。TV映えする美弥が星流ミオヤとして活躍するという2年間はうまく行っていたが、そろそろ潮時だと美弥はあっさりとコンビ解消を口にする。彼氏の一人からもらったというダイヤの指輪を見せびらかしながら。その後の美弥の決定的な一言に逆上した有民は、大理石の置時計を手に取ると思いきり振り上げた。気が付けば、絨毯に血だまりを作って美弥が死んでいた。有民はアリバイ工作のため美弥から取り上げたカードキーを使って金庫にしまわれたダイヤの指輪や、凶器の時計などから指紋を拭き取った。それ以外の場所は拭き取る方が不自然なのでそのままにする。美弥の血は金庫にも激しく飛び散っており、開錠用のスリットに通したカードキーが血で汚れていた。部屋と金庫の鍵はこのカードキーで管理されているのでこちらも血を拭き取った。そして美弥をスーツケースに詰め込み運び出すことにする。午後1時半頃のことだった。

午後2時、フロントに姿を現した有民は係の女性に美弥の忘れ物を取りに行くので、その間誰も美弥の泊まる特別室に近づけないよう伝える。また電話等も自分が取り次ぐので直接美弥へ繋げないよう頼んだ。

午後3時過ぎ、ホテルに戻ってきた有民はフロントで、部屋に籠っていた美弥が書いたという色紙をプレゼントした。書いたばかりだというサイン色紙はまだ墨で濡れ乾いていなかった。有民が星流ミオヤのゴーストライターだと知る者はいない。美弥はこの時間まで生きていたということになるはずだった。

署長の忘れ物をホテルまで届けに来たキャリア刑事の畠山理恩警部と寒山拾得警部補が人目もはばからずバームクーヘンの独り占めについて大騒ぎしていると、フロントから悲鳴が聞こえた。ホテルの従業員と客が青い顔をして立っている。ホテルの封筒に入っていた携帯電話が血液らしきものでべっとりと汚れていた。客の男によると自分がマネージャーをしている星流ミオヤのものだという。封筒はロビーの柱の影に置かれており宛先が書いてあったので有民に届けられたのだという。有民が特別室に駆け付けカードキーで部屋に入ると、室内のあちこちに血液が飛び汚れているものの美弥本人はどこにもいなかった。有民は拾得の制止もきかず金庫をあけダイヤの無事を確かめる。カードキーは仕事中の美弥の部屋に忘れ物をそっと届けるため預かっていたのだという。

肝心の死体がないので確定はしないが大量の血液は美弥のものと思われる。またホテルの従業員らの証言から、美弥は3時頃まで生きていたものと推察される。凶器の置時計は部屋に残されており指紋は拭き消されていた。色紙の筆跡は星流ミオヤのもので間違いなさそうだった。マネージャーの有民は3時以降常に誰かの目に晒されており、美弥の遺体を運ぶのは不可能に思える。

だが全ての事象が有民に有利になるよう出来ていることから、理恩と拾得は有民に狙いをつけ、彼の行ったアリバイ工作崩しにかかる。そして決定的な証拠を見つけ出すと有民を追い詰めていった。

 

ダイヤの指紋を拭きとってしまったのが致命傷でした。その前に犯人しか知りえない情報もうっかり口にしていました。犯人もトリックも最初から分かっている倒叙ものなので、理恩と拾得がどこからそのトリックを崩していくのかを楽しむ話です。即興の嘘は重ねるほどほころびができるという言葉に納得です。

偶像は落ちた偶像に落ちた

鷹取帯刀教授の所には20年前に秘密裡に持ち出した像があった。それはある村が神事に使っているのをコッソリのぞき見した挙句、無断で持ち帰ったものだ。この像は自分のもとにあってこそ価値があると信じて疑わない鷹取は、自著に災いを呼ぶという言い伝えの神事を記した。本棚にある像を眺め悦に入っている鷹取の背後で、倉庫の扉がゆっくりと開いた。

署長の孫の忘れ物を大学に届けに来て迷子になった理恩と拾得は、事件に遭遇した。部屋の主で民俗学の研究者・鷹取の遺体を発見したのだ。額に何かが直撃し即死したものと思われる。鷹取の右手は関節炎か何かで不自由だと思われるが念を入れて拘束したのか、右袖には資料倉庫にあった骨董品の手錠をはめていたと思われる錆がついていた。部屋の中は別段荒らされておらず、本棚の一番上のスペースがぽっかり空いていることから、ここに何かが置いてあり凶器となった可能性があった。

別件でやってきた大学の事務職員は鷹取の死に驚くとともに、校内で気絶していた身元不明の記憶喪失の男を保護していると2人に言う。男は鷹取が研究資料として大事にしていた像をむき出しで所持していたため、それを伝えるためにやってきて鷹取のことを知った。通報を受けてやってきたのは理恩の同期の一ノ瀬由音警部だった。由音は男の正体を知っていた。ある山奥の村にある旧家の跡取りで、20年前に鷹取に像を盗まれたと主張している長根禄郎だった。長根の記憶喪失は頭に強い衝撃を受けたショックによるものらしい。長根は金色のアフロヘアに金縁のサングラス、オレンジとモスグリーンのストライプのスーツという印象的な出で立ちをしていたため有力な目撃情報が見つかった。

画家で美術講師をしている徳田は、連日向かいの建物の屋上から事件のあった建物の絵を描いていた。授業を終えた徳田が屋上に着いた時、窓越しに長根が倉庫から出てくるのが見えた。驚いた鷹取が長根へと近づき、長根は鷹取を突き飛ばした。尻もちをついた鷹取が視界から消え長根も部屋を出て行った。まさか殺人事件だったとは思いもよらなかったという徳田は、特徴的な長根を見間違えるはずはないと断言した。長根が持ち出した像から血痕が見つかった。

現場の状況と目撃情報を合わせると、「長根が鷹取を手錠で拘束しようとしその最中に強く頭を打った。その後倉庫に隠れて鷹取を待ち伏せした長根は、手錠を外した鷹取の隙をついて襲った。その後朦朧となりながら像を持ち出した長根は校内で気絶し保護された」という不可解な状況になる。訳が分からないという拾得に対し、理恩は情報の整理整頓をし思考を四次元に移せば解決すると言った。

 

長根はアフロのおかげで気絶と記憶喪失程度で済んだようです。門外不出の像を盗んで平然としているくらいなので、どちらかといえば悪人は鷹取の方です。

遺産と誤算

キャンプ場に届け物をしに行こうとして遭難し2日間山をさ迷った理恩と拾得は、通りがった車を襲撃して助けてもらった。運転手の尼崎はある別荘に向かうという。別荘の持ち主・鯖口花江には晩年になって売れ始めた版画家の父がいたが、幼い頃の貧乏暮らしなどを恨んでおり復讐のために何もない山奥に父親の隠居場所を建てたらしい。尼崎も初めて招待されたという別荘には2人の先客がおり、自分が一番最後だと尼崎は言う。応接間の先客は花江の秘書の根髄、弁護士の球磨、尼崎は美術雑誌の編集者だった。話によると花江には夫がいるが、1年ほど前に失踪したらしく行方は分からない。花江はその心労からか、半年以上も入院を余儀なくされつい最近退院したという。

今回は全てが花江の手配で、秘書の根髄でさえ誰が招待されているのか知らされなかったらしい。版画家の父親が遺した「版木の部屋」にまつわる話ではないかと3人は話し合っていた。電話を借りた理恩は由音に花江の夫の失踪について調べるよう頼んだ。1時間後、夫はギャンブルで花江の会社に相当の損害を与えたことが分かった。

この別荘を建てる際、父親がひそかに「版木の部屋」の図面を描き秘密裡にその部屋をどこかに作ったのではないかという噂があった。版木の部屋とは前後左右の壁と天井、床の6面全てが版木で出来ておりそこに作品を彫ったものだ。売却すればかなりの額になるらしい。その部屋が地下で見つかったと花江は言う。3人の客、理恩と拾得は花江に連れられて地下へと向かった。

巧妙に隠されたドアを開けると積み上げられた木材などが何かの拍子で崩れて散らばった部屋があった。その部屋の奥が「版木の部屋」らしい。ようやく開いた扉の向こう、3畳ほどの部屋の真ん中に白骨死体が横たわっていた。おおむね予想通りの展開だと理恩が呟いた。

 

死体は服装などから花江の夫だと判明しています。骨になって事故かどうかも分からないなか殺人だと言い切った理恩は、部屋に残された小さな痕跡から犯人を導き出し、共犯の存在もあぶり出しました。

ワースト・インプレッション

成績は非常に優秀だが始末書ばかり量産している畑山理恩の現場研修が間もなく終わろうとしている。上層部の面々は問題児が組織の中枢で上にあがっていくのを苦々しく思っていた。そんな時、副総監の陣外摩京によって理恩は交通課から寒山拾得のいる刑事課へと異動になった。

キャリア組というだけでなく独特の威圧感を持つ寒山拾得は、周囲の刑事仲間からは浮いた存在、目の上のたんこぶ的存在だった。そこに空気も読まない婦人警官姿の理恩が突然やってくるや否や、これ幸いと拾得に理恩が押し付けられる。拾得たちは、消火活動の終わった火事の現場に来ていた。急こう配の丘の上に一軒だけ立っている家は、木造ということもありあっという間に火が回り全焼したものの周囲に被害はなかった。無事なのは家から離れた場所にあった郵便受けくらいだった。中には上から今朝の朝刊、夕刊、ダイレクトメール、宅配の不在伝票が入っていた。

火事は放火の疑いが強く、焼け跡からは家の主で一人暮らしの早坂雁絵の遺体が見つかった。通帳や現金が盗まれていなかったことから強盗の線は薄い。また雁絵は、放火の数時間から十数時間前に殺害されていたことが分かった。不在伝票は雁絵が愛用している美容クリームの通販の荷物で、その前日にもジョギングシューズを宅配業者から受け取っていたことが分かっている。新聞配達員が夕刊を郵便受けに入れたのは火事発見の30分ほど前で、その時は怪しいものは何も見ていなかった。

朝刊は高校生アルバイトが毎朝6時頃に届けている。ぽつんと離れて届けにくい場所なのでいつも最後に配達しているが、妙なものは見ていないと証言していた。

捜査会議の最中、理恩に呼び出しがかかり拾得も同行させられた。ロビーにいたのは理恩を刑事課に送った副総監の陣外だった。持って回った言い回しではっぱをかける陣外に対し、理恩は副総監もすでに事件の真相を分かっているようだと言う。理恩は今回の事件はトリックなどは存在せず人の悪意があるだけだという。理恩も事件の真相に行き着いているらしい。会議には戻らず好きに動くといい、理恩は一人動き始めた。

その後、理恩の推理によって追い詰められ決定的な証拠をつきつけられた犯人は逮捕されたものの、いずれまた社会に出てくる。そしてまた重大な罪を犯すかもしれない。だが法が定めた以上の罰を与えられないと理恩と拾得が話しているところに、ひょっこりと陣外が姿を見せた。これから辞表を提出するのだという。陣外には副総監よりもやりたいことがあるらしい。分かりやすく言えば清掃ボランティアと言い残し、陣外は警察を去った。

まもなく犯人が留置場で青酸カリを飲んで自殺したという知らせが入った。物品の持ち込みなどは厳しくチェックされているので、外部の人間があらかじめ毒を仕込むのは難しい。だが自殺の前日、副総監が署に来ていたことを思い出した理恩と拾得の脳裏ににわかにクローズアップされる言葉があった。「清掃ボランティア」いったい何を掃除するつもりなのか。

 

理恩と拾得の出会い編でした。犯人が雁絵を殺した動機も火をつけた理由もあまりに身勝手すぎて普通には理解しづらいです。理恩曰く良心の欠落ということなのでサイコパスですかね。

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最後に陣外vs理恩&拾得という構図が示されましたが、前3作には存在がほのめかされることすらなかったので唐突感が否めません。続くのでしょうかね?