歌田年『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』あらすじとネタバレ感想

歌年さんの「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」のあらすじと感想をまとめました。

勘違いで持ち込まれた依頼をきっかけに一つの大きな事件に行き着くというストーリーです。プロの模型家の土生井(はぶい)による模型からの推理や主人公の紙鑑定士という特性を存分に生かしたミステリーでした。

第18回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作の期待通りの読み応えのある一冊でした。

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「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」書籍概要

どんな紙でも見分けられる男・渡部が営む紙鑑定事務所。ある日そこに「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした女性が、彼氏の浮気調査をしてほしいと訪ねてくる。手がかりはプラモデルの写真一枚だけ。ダメ元で調査を始めた渡部は、伝説のプラモデル造形家・土生井と出会い、意外な真相にたどり着く。さらに翌々日、行方不明の妹を捜す女性が、妹の部屋にあったジオラマを持って渡部を訪ねてくる。土生井とともに調査を始めた渡部は、それが恐ろしい大量殺人計画を示唆していることを知り―。第18回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。「BOOK」データベースより

  • 紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人(2020年1月/宝島社)

あらすじ

独立し「渡部紙鑑定事務所」を立ち上げた渡部だったが、当てが外れ時間を持て余す毎日を送っていた。そんな時、紙鑑定を神探偵と勘違いした米良杏璃が戦車のプラモデル写真を持って依頼にやってきた。杏璃は同棲している彼氏がプラモデルを作り始めて以降よそよそしくなり、落としたと言っていたプレゼントの財布がゴミ袋の底から見つかったことから浮気を疑っていた。現物のプラモデルはすでになく彼氏の不審な行動の手掛かりは一枚の写真のみ、金と人助けのため渡部は依頼を引き受けることにした。

懇意にしている出版社のつてを辿り、かつて模型専門誌などで活躍していたという伝説のモデラー・土生井の紹介を受けた渡部は彼の家へと出向き相談をする。業界から干されているという土生井だったが模型に対する目や知識、洞察力は本物で、杏璃が発見した彼氏が捨てた財布から見つかった紙片などの情報から、杏璃の彼氏は外パブで知り合った外国人女性の気を引くためプラモデルを作ったのではと推理した。その後彼氏を尾行した渡部は、土生井の推理が的中していることに驚くとともに証拠写真を取り杏璃に報告した。

彼氏との修羅場でケガを負った杏璃が治療費が必要になったため当初予定していた額より報酬がだいぶ落ちた。代わりにと彼女が紹介したのが、曲野晴子という女性だった。”白い家のジオラマ”を持ち込んできた晴子は、ジオラマは同居している大学生の妹・英令奈の部屋にあったもので、妹は三か月前から行方不明だと言う。捜索願も出しているが一向に行方が分からない。英令奈はこういった物を作る講座を受けていたが、ジオラマは他人の作品でプレゼントされたものだという。晴子に言われるがままジオラマの底を確認した渡部は「S to E」という手書きの文字を見た。Eはおそらく英令奈だが、晴子にはSの心当たりはまるでない。

英令奈は、晴子の母親が再婚相手との間に出来た14歳違いの妹で、晴子は短大を出てすぐに家を出て以降ずっと一人暮らしを続けてきた。英令奈は高校を中退し晴子を頼って家を飛び出してきた。2年前に実家の母親を末期がんで亡くしたあとは大学の受験資格を得て女子大生になったものの、メンタルヘルスに問題を抱えていた英令奈は時折病院に通っていたという。渡部は少しでも英令奈を見つける助けになればと依頼を受けることにした。

渡部が持参した白い家のジオラマを見た土生井は、ジオラマというよりミニチュアハウスのようだと言って屋根を外すと、家の中にはきちんと間取りができ三体のフィギュアが置かれていた。手前の部屋にはE、Kとそれぞれ腹部に書かれた二体のフィギュアが銃を手に背中合わせに立ち、奥の部屋には四角い囲いのなかにTと書かれたフィギュアがいる。まるで監禁されているようだと物騒なことを考える渡部に対し、土生井はジオラマの中の木に付けられている葉をちぎり取って観察すると本物の葉を使っていると告げる。渡部は独立前まで勤めていた会社「自然堂紙パルプ商会」時代の同期に連絡を取り植物学者を紹介してもらうと、ジオラマに使われていた葉の鑑定を依頼した。

これまでに分かったことを晴子に報告すると、ジオラマの間取りがかつて晴子たちが住んでいた家のものなのでおそらくEは英令奈、Kは母親、Tは義理の父(英令奈の実父)だろうと言う。またフィギュアの配置について、晴子は一緒に住んでいた頃に義父から性的虐待を含むDVを受けていた事、母親もDVが怖くて晴子を守ってくれなかった事、義父から逃れるために家を飛び出し今に至る事、その後英令奈から義父の被害に遭っているというSOSがきたことで家出の手助けをし一緒に暮らし始めたことを話した。実家には住所を教えていなかったものの、義父はどうにかして晴子の住まいを見つけたらしくポストに殴り書きの手紙が入っていたことで引っ越しもした。英令奈の事情を知ったうえでジオラマを作ったと思われる作者Sについて、英令奈の味方ではないかと渡部は考えた。

鑑定の結果、ジオラマに使われていた葉は河津桜だと分かった。そこから土生井の助言を得て候補地を絞っていった渡部は、グーグルマップのストリートビューを使い“白い家のジオラマ”そっくりの住宅を見つけ出した。だがマップ情報が古く、白い家は取り壊されて駐車場になっており、運良く近所の住人から白い家の話を聞くことができたが収穫はなかった。だがジオラマの部品らしい荷物を抱えた人物を目にし、後を付いて行った渡部はあるビルで開催されているミニチュアハウスの制作教室の存在を知る。LINEで土生井のアドバイスを聞いた渡部は、講師の葉田という男性から白い家のジオラマの作者が蒲沢新次であり、彼は解離性健忘を患っていて時折慣れた行動そのもの忘れてしまうことを聞く。また英令奈が箱庭療法で葉田のところに通っていたことも分かった。蒲沢は二か月ほど前から教室にこなくなり連絡もとれなくなったらしいが、突然葉田のアトリエにジオラマ作品を送ってきたという。

送られたジオラマを見せて貰った渡部は写真を撮り土生井に送る。ジオラマの土台にはプレートがあり「612」と書かれていた。実在の家をモチーフにしているのか、何となく見覚えがあると葉田は言うがそれが何なのかは分からないらしい。このジオラマも家の屋根が外れ、部屋の床にはナイロンでできた紐の輪が飛び出していた。引っ張ると床板が外れ、中にはフィギュアが一体横たわっているのが見つかる。不吉な想像をした渡部が土生井に報告すると、土生井は送られてきた写真からネットを駆使して推理を展開し蒲沢の意図したらしき場所を特定した。その後も連絡を取り合い土生井の指示した場所を掘った渡部は、何者かの遺体を掘り当ててた。

すぐさま通報したものの用意周到に準備を整え手際よく遺体を見つけてしまったため、刑事からは容疑者だと思われてしまう。繰り返しの事情聴取から解放された渡部は晴子に会い今までの経緯を報告する。発見したのは英令奈かもしれないと考えた渡部だったが、遺体は20代から50代の男性だと判明した。ジオラマに関しては師匠がいると説明した渡部は、晴子に紹介するため土生井に家に向かい3人で事件について話していたところ、突然土生井が血を吐いて倒れた。酒の飲みすぎで肝臓を傷めたらしく、身寄りがいないため晴子が入院中の土生井の世話を申し出た。

遺体の身元が判明し、晴子の義父だと分かった。英令奈に代わって蒲沢が義父を殺害し2人で逃げた、と考えた渡部と晴子だったが冤罪だった場合を考慮し警察にはまだ話さないでおこうと話し合っていると、葉田から再び蒲沢のジオラマが送られてきたと連絡が入った。ジオラマは明らかに東日本大震災だと分かるもので廃屋の上に漁船が乗り上げているものだった。土台のプレートにも「311」とあるが、今回は何の細工もされていないようだった。写真を土生井に送ると、病院の土生井に付き添っている晴子を介してすぐに返事が来る。船のマストのロープに髪の毛が使用されているので、警察にDNA鑑定するよう伝えるという指示だった。タイミング良く容疑者の渡部を尾けていた刑事達が葉田宅を訪ねてくる。葉田の所へ来た説明をしている最中に、再び蒲沢からジオラマが届く。機首を発砲スチロールにめり込ませた、飛行機が墜落した瞬間としか思えない雑なジオラマの台座には「918」と書かれていた。一か月ほど先だ。612が晴子の義父の殺害日時だとすると、918は犯行予告だと渡部は考えた。

311のジオラマの船に「第一暁海丸」と書かれているのが土生井からの連絡で分かり、ネット、検索で第二暁海苑という児童養護施設の存在を知った渡部は、土生井が英令奈が何らかの理由でこの養護施設にいると推理していることを晴子から聞き施設へと向かったが無人だった。近くの店に尋ねると引っ越していったと言われる。ちょうど3~4時間前に大型バスで出て行ったらしい。その中に英令奈も一緒にいると分かった。と同時に、厚木の殺人事件(晴子の義父の事件)の犯人が第二暁海苑の小野寺苑長だという投書があったらしく、刑事達もやってきた。投書に使われた紙質からあるホテルのレターセットだと特定した渡部は、彼らが帰ったあと苑のゴミ集積所から紙で作られた模型を見つけた。第一暁海苑の完成予想模型とタイトルがついている。広場らしき場所に切り込みを見つけた渡部は、切り込みの下に20体ほどの人形が置かれているのを目にした。

養護施設の庭に20体の遺体が埋まっている……慄然とし土生井に連絡をとった渡部は、飛行機が墜落したジオラマから推理をした土生井から、子どもたちが乗って行った大型バスが次のターゲットだと聞く。しかも一か月後ではなく今日がまさに犯行予告日だという。バスごと生き埋めにする場所の特定を土生井に頼みつつ、渡部も今まで見聞きした情報から彼らの向かった先を推測し追いかけることになった。

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渡部と土生井の連携に加え、渡部の協力者も現れ危機一髪ながらも次の犯行は食い止められました。バスの中の英令奈や子どもたちも全員無事でした。土生井の推理によって犯人の正体も明らかになり一件落着となりました。事件解決後、業界を干され冷や飯を食っていた土生井に驚きのサプライズがありほっこりしました。

安楽椅子探偵チックな模型の専門家の土生井と、紙の専門家の渡部という静と動の組み合わせがうまく作用した事件という印象をうけました。模型と紙という限定された要素だったので続編が難しそうな気もしますが、彼らの活躍とその後も読んでみたいなと思う一冊でした。