米澤穂信「ベルーフ」シリーズ第1弾『王とサーカス』あらすじとネタバレ感想

米澤穂信さんの「王とサーカス」のあらすじと感想をまとめました。

こちらは「さよなら妖精」に登場したヒロイン・太刀洗万智を新たに主人公に据えたシリーズの1作目という位置づけです。先にこちらを読んでしまったのですが、あとがきにもあったとおり、こちらだけでも十分面白い1冊でした。

「王とサーカス」書籍概要

二〇〇一年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり…。「この男は、わたしのために殺されたのか?あるいは―」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?『さよなら妖精』の出来事から十年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生をも左右するような大事件に遭遇する。二〇〇一年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクションにして、米澤ミステリの記念碑的傑作!「BOOK」データベースより

  • 王とサーカス(2015年7月/東京創元社)
  • 王とサーカス(2018年8月/創元推理文庫)

 

週刊深層の旅行特集記事のためにネパールに到着した万智は、カトマンズにあるトーキョーロッジに拠点を置きながら取材をするつもりだった。

だが到着の翌日、王族殺害事件が起きる。早速万智は雑誌社の依頼を取り付け、この事件を記事にすべく動き出した。

登場人物

  • 太刀洗万智:フリージャーナリスト。トーキョーロッジ202号室に宿泊。
  • ロバート・フォックスウェル:ロブ。アメリカ人バックパッカー。トーキョーロッジ203号室宿泊。
  • 八津田:日本の僧侶でトーキョーロッジの常連客。トーキョーロッジ301号室。
  • シュクマル:行商にきたインド人。トーキョーロッジ201号室。
  • チャメリ:トーキョーロッジの女主人。
  • サガル:土産物売りや屑拾いで稼いでいる強かなネパール人少年。万智の案内役などを務める。
  • ラジェスワル准尉:軍人。
  • バラン:ネパールの警察官
  • チャンドラ:ネパールの警察官

あらすじ

8人の王族の死を知った万智は、サガルの案内の元取材を開始した。同時にチャメリに事件について詳しい人に話を聞きたいと紹介を頼むと、ラジェスワル准尉が事件当日王宮に詰めていたので連絡を取ってみると応じてくれた。

2日、国王の死を悼み不誠実な対応をする国に憤る群衆が王宮に集まる様子などを取材してトーキョーロッジに戻った万智は、チャメリからことづかったという封書をサガルから受け取る。中身はラジェスワル准尉との面会日時を記したものだった。

隣室のロブの様子がおかしくなった。ドアに「入るな」の張り紙をつけ、何やらごそごそと物音を立てているが、様子をうかがっても大丈夫と虚勢を張る。

3日の午後2時、ラジェスワル准尉が指定したのは廃業し荒れ放題のビル内にある元「クラブ・ジャスミン」だった。ラジェスワル准尉は万智と会うのは恩人の妻であるチャメリに頼まれたからであって、取材を受けるつもりはないと一貫して拒絶の態度を取り続けた。

何とかして取材の糸口をと「正しい情報を伝えたい」と言葉を尽くす万智に対し、ラジェスワル准尉は何のために伝えようとしているのか教えてほしいと問いかける。この国の悲劇は、外国では娯楽として消費され、大衆はより刺激的なものを求める。万智はサーカスの座長であり、万智の書く記事はサーカスの出し物だと言う。自分は二度とこの国をサーカスにするつもりはないと言い、取材は終わった。万智は何も返せなかった。

4日、サガルから教えてもらった近道を通りふたたび取材のため町に出た万智は、兵士らが王宮に押し寄せた群衆を催涙弾で応酬し逃げ遅れた人間を取り囲んで殴る場面に居合わせた。逃げ惑う人々に交じり、万智も逃げた。抜け道へと入った万智は、その途中にある空き地で足を止めた。子ども達が集まって何かをのぞき込んでいる。そこには人が倒れていた。そして間違いなく死んでいた。

迷彩柄のズボンにブーツ、上半身は裸、うつぶせた背中にはいくつもの細い傷がつけられている。通報を受けた警官がやってきて野次馬を蹴散らす前に、万智は遺体の写真をカメラの収めた。背中の傷跡はアルファベットだった。「INFORMER(密告者)」。やってきた警官によって仰向けられた男は、ラジェスワル准尉だった。

ラジェスワル准尉が万智と会い何らかの情報を漏らしたと考えた人物によって、彼は殺害されたのだろうか。だがそれなら真っ先に万智が狙われるはずだった。

トーキョーロッジの4階は食堂になっており、唯一テレビがある場所だった。食堂には先客の八津田がいた。八津田が淹れてくれた日本茶を飲みながら、ジャーナリズムに対する悩みを口にする万智に、元僧侶の八津田は釈迦の教えの話をしてくれる。そんななか、ネパールの警察だという人間らがトーキョーロッジにやってきて万智を警察署につれていく。彼らは、チャメリからラジェスワル准尉が万智と会ったことを聞いていた。

ラジェスワル准尉は3日の午後2時に万智と会い、その後、午後7時前後に何者かによって射殺され、翌4日の午後10時半、空き地で見つかり通報された。殺された場所は不明。万智の手から硝煙反応が出なかったこともあり、万智は解放された。トーキョーロッジに戻った万智は、部屋に何者かが侵入した形跡を認める。警察ならチャメリに鍵を開けされればいい。警察以外の誰かの仕業だったが、聖書に隠していたラジェスワル准尉の背中の写真の入ったメモリーカードは無事だった。

万智の解放を喜んでくれた八津田に、日本に帰国する時、友人宛の仏像をことづかってくれないかと頼まれる。ネパールで料理屋をしている日本人の友人にいつも頼んでいるのだが、大麻を吸って体調を崩し寝込んでいるらしい。ネパールでは大麻が多く自生し簡単に手に入るため、違法となった今でも規制はゆるい。万智自身も初日にサガルに興味がないかと仄めかされていた。帰国後のスケジュールが曖昧なことを理由に万智はいったん保留にした。

翌日、万智にバランとチャンドラという2人の警官が護衛についた。兵士たちがラジェスワル准尉の敵討ちをもくろんでいるらしいので、念のためということだった。王族殺害事件の記事にラジェスワル准尉の事件が関連しているかどうかの裏を取るため、准尉の遺体発見現場を見て回った万智は、2人を相手に事件の検証を始める。誰が何の目的でINOFORMERを背中に刻んだのか。検証の結果クラブ・ジャスミンへと向かった3人は、そこに大量の血痕を発見する。ラジェスワル准尉の殺害現場はクラブ・ジャスミンだった。同時に凶器となった拳銃も発見。万智を信用の足る人物と見なしたのか、彼らはラジェスワル准尉が組織的に大麻密輸を行っていた疑いがあったことを教えてくれる。

今まで見聞きした事柄から、万智は拳銃の出所をに見当をつけ本人にぶつけてみた。持ち主は万智の推測を認め、誰かに盗まれた銃を探すため万智の部屋にも侵入していた。

外出禁止令が出され原稿の締め切りも迫っている。一晩かけて書き上げたものを、翌早朝、万智は雑誌社へFAXした。ラジェスワル准尉のことは書かなかった。彼の事件は王宮殺害事件とは無関係と万智には分かったからだ。

ロブがトーキョーロッジを去るという。万智はアメリカ人のロブにINOFORMERという単語をどう思うかと尋ねると、彼はなじみがないと答えた。知らない単語ではないけれど普段使わない、辞書を調べたら載っている程度の認識だという。

シュクマルもインドへ帰るという。カトマンズの良い土産があれば売ってほしいと粘る万智に対し、彼はインド製だが非常に良い品だといい銀製のゴブレットを売ってくれた。

八津田と会った。取材を終え飛行機のチケットが取れ次第帰国するという万智に、あらためて仏像をことづけたいらしい。

街へとでた万智はサガルに声をかけられる。おすすめの料理屋があるというサガルの案内でそこへと向かう途中、サガルは万智の書いた記事の内容を知りたがり、期待に満ちた目を向けてくる。だが万智の返事を聞き、みるみる表情が失われて行った。サガルは、万智にラジェスワル准尉のことを記事にしてほしかったのだ。

 

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実際はもっと厚みのある話なのですが、ごっそり削りました。

王宮殺害事件に絡んだラジェスワル准尉の死、それも万智が取材を申し込んだことによって起こったものという衝撃的な事件の幕開けでしたが、次第に形を変えていきました。

ラジェスワル准尉の死と背中のメッセージは、様々な人間の思惑が重なり合って出来た物であり、万智自身も無関係ではありませんでした。

私自身、昔からなぜかワイドショーが苦手でほとんど見ないのですが、他人の悲劇を娯楽にしているという言葉にようやくすとんと腑に落ちた気がします。競争するかのように事件の被害者、加害者の過去を根掘り葉掘り調べ上げて報道するのに、嫌悪感を抱いていたようです。