米澤穂信『本と鍵の季節』あらすじとネタバレ感想

米澤穂信さんの「ほんと鍵の季節」のあらすじと感想をまとめました。

図書委員の主人公の堀川くんと松倉くんが、図書室に持ち込まれる謎を解いていくという短編集です。日常の何気ない謎かなと思いきや、なかなか大きな事件を扱っていました。

短編を順番に読み進めるうちに4月に図書委員として出会ったばかりの2人の関係が徐々に変わっていき、松倉くんの背景が明らかになり、どう事件に決着をつけるのかと盛り上がったところでラストを迎えるという余韻の残る一冊でした。

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「本と鍵の季節」書籍概要

堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが…。図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。「BOOK」データベースより

  • 本と鍵の季節(2018年12月/集英社)
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913

図書館を遊び場にしていた3年生が引退し、人の少なくなった図書室で、堀川と松倉はのんびりと図書委員の仕事をしていた。そこに引退した3年の浦上麻里がやってきて、探し物を手伝ってほしいと頼む。以前2人が暗号小説を解いたという実績にダメ元ですがりたいらしい。探し物は、亡くなった祖父の金庫の暗証番号だった。

金庫はダイヤル式で、決められた数字を決められた回数左右どちらかに回すのを何度か繰り返して開けるというもので、祖父は「大人になったらわかる」というヒントしか残さなかった。休みの日、麻里の自宅を訪れた2人は、祖父の部屋へ通される。様々な蔵書が並ぶ中、2人は持ち主の趣味とは外れる4冊の本がヒントになるのではと思いついた。それらの本について、要返却という付箋がついていたことを麻里は思い出した。

終始機嫌の悪い松倉と図書館で調べ物をすると一度外に出ると、松倉はあの家には何かあると言い出す。麻里と彼女の姉、母とまるで2人を監視しているかのように姿を現し張り付く様子は確かに気になった。そして自動販売機のお茶を飲んだ瞬間、堀川はあの家で感じていた違和感の正体を知った。

一人だけ浦上家に戻った堀川は、待ち構えていた3人の前で金庫の鍵の暗証番号の謎解きをして見せる。それぞれの本の分類記号(図書館などで背表紙についている記号)を書き出して並べ、2つの数字ごとに五十音に当てはめると「タスケテクレ」という文字が浮かび上がってくる。麻里たちの表情が一変した。

 

913は分類記号で日本の小説を表すそうです。4冊の分類記号は間違いなく金庫を開ける数字でした。ですが、図書委員だった麻里ならば知っていて気づくかもしれない分類記号を使って堀川と松倉は「タスケテクレ」という偽物のメッセージを3人の前で披露します。彼女たちの言動から、浦上家には本来の家の主がいて、金庫を狙う彼女たちによって監禁されているかもしれないと考えての行動でした。

図書委員でしたが真面目に仕事をしていなかった麻里は、わざと間違った分類記号を口にしても気づくことはありませんでした。大人になったら分かるというのは、将来は図書館司書になるという孫の言葉を聞いた祖父が、「司書=分類記号の知識」を見込んで残したヒントでした。

ロックオンロッカー

堀川の行きつけの店の、友人と一緒に来店したらカット代4割引きクーポンに惹かれた堀川と松倉は、予約をして美容院を訪れた。日曜日だというのに閑散とした店は、堀川の予約の電話を受けたという男の接客を奪うように店長がやってきて、2人をロッカーブースに案内した。その美容院は透明なビニール袋に貴重品のみ入れて、それ以外の荷物はロッカーに預けるというシステムだった。初めての美容院で松倉が鏡の前に置かれた大きな花瓶の花が本物だと驚きつつ、2人は店長に貴重品は必ず手元におけというアドバイスに従う。

美容師に話しかけられるのが苦手なのか、並んで座った松倉がやたらと話題を振ってくる。先ほどの店長について2人が話していると、会話を遮るように店長がやってきて閉店が近いから先に会計を済ませたいという。

カットが終わりロッカーブースに戻った2人のところへ、新たに3人組の派手な女性客がやってきた。店を出てからも考え込んでいた松倉が、何かに気づいたように堀川を道路を挟んだ向かいの街路樹に誘った。面白い見世物がみられそうだという。

松倉は店長のセリフ「貴重品は『必ず』手元に置いておく」の真意をずっと考えていた。なぜ「必ず」を付けたのか、なぜ閉店間際に女性客が3人やってきたのか。松倉は、最近あの美容院のロッカーブースで盗難事件があり、店が警戒中だったのではないかと推理した。

 

不自然な店長の言動、休日にも関わらず客のいない美容院、鏡が見えないくらい大きな花瓶の花、2人の会話を遮るように会計を申し出てきた店長……たねが明かされるとなるほど、と思えるものばかりでした。

金曜に彼は何をしたのか

図書委員の後輩・植田には、同じ学校内に不良と名高い兄がいた。週明けからの期末テストの真っ最中、植田が堀川の教室に相談にやってきた。場所を図書館へ移すとそこには松倉もおり、2人で植田の話を聞くことになった。先週の金曜日、職員室の前の窓が割られており、植田の兄がテスト問題を盗もうとしたのではないかと疑われているという。兄は金曜の行動について、証拠はあるといったっきり口を噤んでいる。植田は金曜日の兄のアリバイを証明したいらしい。

植田と兄が相部屋で使っているという部屋に案内された2人は、兄のごみ箱から中古書店で漫画のレシート、通学カバンから「LONG LIFER」と書かれた魚形の醤油入れのような容器、兄の制服のポケットから日付入りの来来々軒のサービス券を見つける。部屋のどこにも購入した漫画が見当たらないことから、2人は植田には離れた家族がいるのではないかと推測する。答えはイエスで、離婚した父が西東京にいると分かった。

西東京市の来来々軒を検索して問い合わせると、該当のサービス券を夜だけ配っていることが分かる。LONG LIFERは花の延命剤ではないかと見当をつける。つまり金曜日の兄は、午後5時過ぎに弟に遅くなると言う電話をかけた後、漫画と花を持って西東京市の病院に入院している父の見舞いに行ったのではないかと推測する。西東京市までは電車の移動で片道1時間弱、7時半頃に学校の窓ガラスを割ることは不可能だった。

 

植田の兄が言っていた証拠品は、来来々軒の日付入りサービス券でした。夜にしか発行されない券を持っていることが兄のアリバイを証明することになります。

そして窓ガラスを割った真犯人は、意外な人物でした。

ない本

自殺したクラスメイトが最後に読んでいた本を探してほしいと3年生が図書室にやってきた。コンピューターに記録されている貸出履歴を見せてほしいという意味だったが、ルールによりそれはできない。そもそも生徒である2人に、パソコン内の貸出履歴を見る権限はなかった。

自殺する数日前、彼は放課後の教室で本を読んでいたらしい。たまたま教室に入ってきたその3年生の前で、自殺した彼は机の上にあった便箋を折りたたみ、読んでいた本にゆっくりと挟んだのだという。自殺した男は友人で、便箋は遺書だったのかもしれないので探し出したいという。

その本が図書室の本だったのかどうかすら曖昧なまま、できる限りの協力をすることにした2人は、先輩の記憶を頼りに本の候補を絞っていく。教室で当時のシーンを再現までしてかなりの記憶が引き出されたものの、最終的に堀川が出した結論は、「そんな本はない」というものだった。

 

3年生のついた嘘を、堀川は図書委員ならではの視点でもって論理的に論破していきました。自殺した男が読んでいた本については嘘だけれど、遺書については本当だろうと考えた堀川は、なぜ彼が嘘を吐いたのかというところに踏み込み、松倉に止められました。

本に挟んだ遺書という嘘は、仲の良かった友人に自殺されてしまった3年生が、考えた末に出した方法でした。

昔話を聞かせておくれよ

ある自営業者が将来を不安視して少しずつお金を貯めていました。ある日、自営業者の近所で空き巣が立て続けに起こり、警察が自営業者の家にやってきて注意を促しました。自営業者は財産をまとめてある場所へと隠しました。その後空き巣は捕まりました。その正体は、自営業者の家にやってきた警官でした。空き巣は警官に化けて自営業者にお金を移動させるよう仕向け、隠し場所を知って奪おうとしていたのです。自営業者はお金を戻そうと思いましたが、その前にお星さまになってしまいました。残された息子は隠されたお金を探しますが、6年経って今も見つかっていません。

昔話のように語った松倉の話を、堀川は彼の家族の話だと受け取った。どんなに探しても父親の財産は見つからなかったという松倉は、自分とは異なる視点からアプローチできる堀川に期待を寄せ、父親の残した手帳を見せ、尋ねられるまま思い出話を聞かせた。

松倉の家の車はカローラだったが、家族でキャンプに行ってテントを張った等の思い出話から、父親が他にもバンタイプの車を所有していて、普段はその車を自営業の書斎(事務所)として使っていたのではないかと推測する。記憶を頼りに当時住んでいた町へと行った2人は、ある駐車場の片隅で埃を被ったバンを見つける。松浦の父親の車だった。

車の中で、父親手製のブックカバーがかけられた本と502と書かれた鍵を見つける。鍵はどこのものか分からず仕舞いだったが、ある町の図書館の除籍本だったと分かった。

 

分からないことにぶつかるたびに推理を重ねていって、父親の車、図書館の除籍本、その図書館がある町のどこかのマンションの502号室、と展開していく流れがこの短編のだいご味だと思います。犯人などはおらず、ひたすら父親が残していった痕跡をたどっていく話です。

目的は父親の残したお金です。見つかるはずがないと踏んでの捜索だったため、堀川はうまくいった時の想定はしていませんでした。松倉の家族の問題ということで、堀川は車から本と鍵を見つけ出したところで手を引くことにしました。

友よ知るなかれ

松倉の話から手を引いたものの、どうしても気になっていた事があり、土曜日の朝、堀川は開館と同時に駅前の図書館へと足を運んだ。6年もの間、なぜ松倉の父親の車は月極駐車場に置いたままになっていたのか。毎月の支払いがなければ契約も解除されるだろうに、そんな様子もなく埃を被りつつもあの車は存在していた。松倉の母親でないことは確かだ。

図書館で6年前の新聞を検索した堀川はある事件を知り、自分が松倉の昔話で大きな思い違いをしていることに気が付いた。思いもよらない展開に驚いている堀川の後ろに、いつの間に来たのか、松倉が立っていた。

 

事実を知ってしまった堀川に、松倉は真実を語っていきます。道を外れるかもしれない友人を引き留めようと少ないながらも思いを込めて言葉を尽くし、月曜日の放課後、堀川は図書委員の仕事をこなしながら友人を待ち続けます。

 

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お人好しで犯人側の意図にやすやすと引きずり込まれそうな堀川を引っ張り上げてくれる頼りになる友人、と思っていた松倉でしたが、なかなか重い背景を持っていました。

堀川の言葉を受けて松倉がどういう結論を出したのか本文では明らかにされていませんが……続編は難しいのでしょうかね…。すごく続きが読みたいです。