米澤穂信『ボトルネック』あらすじとネタバレ感想

米澤穂信さんの「ボトルネック」のあらすじと感想をまとめました。

主人公のリョウの性格によるのでしょうが、全体的に暗い雰囲気のなかで話が進んでいくので、登場人物の一人・サキの明るさが際立って見えます。

「自分がいない世界」に入り込んでしまったリョウが最後に選んだものを考えると、なかなか重いラストとなっています。

「ボトルネック」書籍概要

亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。「BOOK」データベースより

  • ボトルネック(2006年8月/新潮社)
  • ボトルネック(2009年9月/新潮文庫)

あらすじ

土曜日、2年前に事故で転落死した諏訪ノゾミを悼むために東尋坊へ来ていたリョウに、兄が亡くなったという連絡が入った。兄はバイクの自損事故で長い間意識が戻らないまま死を迎えたようだ。通夜のため自宅へ戻ろうとしたリョウだったが、誰かの声を聞いたと思った瞬間、崖から転落してしまった。

目が覚めるとリョウは金沢市内に戻っていた。いつの間に東尋坊から帰って来たのか分からないなまま自宅に到着すると、出てきたのは見知らぬ少女だった。彼女はこの家の人間だと言い、嵯峨野サキと名乗った。

リョウは2人兄弟だった。両親がはじめから子どもは2人と決めていて、兄のハジメと、流産で姉のツユが亡くなった為その後生まれたリョウの2人。どうやらサキは、その生まれてこなかった姉・ツユだと思われた。どうやらリョウは別の可能世界、つまりパラレルワールドにやってきたらしい。サキの世界には、もちろんリョウは存在していない。

あきらかに胡散臭い存在であるリョウを受け入れ、サキは間違い探しをしようと提案する。サキが存在する世界とリョウが存在する世界はどう違っているのか。それは嵯峨野家からして異なっていた。

リョウの両親は、リョウが幼い頃からそれぞれ別の浮気相手を作っていた。リョウ以外には気を遣っていたらしく互いに浮気がバレないよううまく立ち回っていたが、6年ほど後にバレてしまった。反抗期に入っていた兄はますます荒れ、実力以上の大学への受験に失敗して浪人中に自分探しの旅へ出かけてすぐ事故にあった。お互いを罵り合い、完全に破綻しているにもかかわらず世間体のためだけに夫婦関係を続け監視しあう家庭。それがリョウの世界だった。だがサキの方では、両親は仲良く旅行に出かけているという。

サキの方にも両親の修羅場があった。だが何もしなかったリョウに比べ、サキは自分自身が盛大にブチ切れることで両親の頭を冷やし、夫婦仲を救っていた。

日曜日、漫画喫茶で一夜を明かしたリョウは、サキと一緒に昨日この世界で目を覚ました場所へと行くことになった。その道すがら、

  • リョウの世界では潰れているアクセサリーショップが、こちらではサキの協力のおかげで今も経営していること。
  • リョウの世界では脳こうそくで閉店した食堂のじいさんが、こちらでは今でも元気で働いており食堂も続いていること。

などを知る。リョウの知る食堂のじいさんは、道を細めて渋滞を引き起こすイチョウの木のせいで救急車が間に合わず、今も寝たきりになっている。だがこちらでは、サキがイチョウの木のせいで大事故に遭ったためイチョウが取り除かれ道路が広くなり渋滞は解消されていた。そのおかげで救急車の到着が早まっていたのだ。

そして最大の違いは、ノゾミが生きていたこと。中学2年生で死んだノゾミは、こちらの世界では高校1年生になっており、とても明るくポジティブな少女になってサキに懐いていた。

友人の連帯保証人になって借金を負ったノゾミの両親は、ノゾミを連れ横浜から母の地元の金沢に越してきていた。お金もなく金沢に来てから両親の仲も悪くなり、とうとう母親が家を出て行き、河畔公園にいたところにリョウが声をかけたのだ。ヒューマニストの父にもモラリストの母にもなりたくないというノゾミに対し、リョウの言葉で彼女は何でもない人になった。

サキの世界のノゾミも河畔公園に佇んでいたところをサキに声をかけられた。サキは彼女にオプティミストになれば?とアドバイスし、ノゾミはそれ以降、明るく変わり傷つかなくなった。

同じノゾミなのに、リョウの世界では何でもない人になり東尋坊で事故死した。サキの世界では明るくなり今でも生きている。サキはノゾミについて、あの時声をかけてきた人とそっくりにノゾミは変わったと評した。サキがブチ切れた日が両親の分岐点だったように、サキが声をかけた日がノゾミの分岐点だったのだ。

サキに会いに来たノゾミと一緒に従姉妹のフミカがいた。フミカはノゾミが亡くなった日、一緒に東尋坊に旅行に行っており、葬式に参列しなかったリョウのところへ彼女の事故の詳細を伝えにきた人物だった。サキはなぜかフミカに嫌悪感を持っている様子だった。フミカに勧められたというミントタブレットをノゾミがリョウにくれようとしたが、先に動いたフミカからリョウはタブレットを受け取り、サキはフミカからもらうのを拒絶した。

月曜日、学校をサボったサキとともにリョウは東尋坊へと行った。フミカから聞いたノゾミの事故の様子をリョウから聞き出したサキは、話の中でフミカが吐いた嘘を見抜き、ノゾミが危ないと言い出す。サキの世界でもノゾミとフミカは東尋坊旅行をしていた。だが2人ではなくサキも一緒にいた。

サキによると、フミカは人が不幸になるのを楽しむ性癖があるという。両親の借金で暗い性格になったノゾミ、事故で大怪我をして入院したサキと不幸の現場に顔を出す。だがサキのおかげでノゾミは不幸ではなくなった。ノゾミを不幸にするため、フミカは東尋坊でわざと壊れやすい崖っぷちの鎖の上に座らせようと誘導した。気づいたサキによって事故死は食い止められ、ノゾミは死ななかった。

自宅へと戻ったサキは、リョウを家に残し急いで学校へ行くという。そこに兄のハジメが帰宅してきた。サキの世界では兄は生きており、普通に相応の大学に通っていた。

学校から戻ったサキは、フミカから勧められたというタブレットの中に睡眠薬が1錠混入されていたのに気づいて持ち帰ってきたとリョウに話す。ノゾミを不幸にしたいフミカの殺意のないいたずらだろうと断じる。だが朝に弱いノゾミが目を覚ますためにタブレットを食べるとどうなるか、通学途中にふらふらになるに違いない。そこがイチョウがなくなったおかげで交通量が増え、別の危険が生まれた道だったら……サキはまたもやノゾミの危機を救ったのだ。

リョウの世界とサキの世界の間違い探し、サキが関わったものは全て良い方向へ向かっているということだった。

リョウの世界では取り付く島のないくらい冷え切った両親と家庭、死んだ兄、潰れた店、寝たきりになった食堂のじいさん、死んだノゾミ、今もあるイチョウの木。

サキの世界では仲の良い両親、大学生をしている兄、今も経営を続けているアクセサリショップと食堂、消えたイチョウの木、明るく楽しそうに笑うノゾミ。

瓶の首は細くなっていて水の流れを妨げる。そこからシステム全体の効率を妨げる部分をボトルネックと呼ぶ。全体の向上のためには、まずボトルネックを排除しなければならない。

全てを受け入れ何もしない。自分はボトルネックだったとリョウは思った。

気が付くとリョウは東尋坊に立っていた。元の世界に戻って来たらしく、携帯で確認すると月曜日だった。兄の葬儀に参列しなかったリョウは、世間体が何より大事な母の怒りを買っていることだろう。

「ツユ」を名乗る少女から電話がかかってきた。ノゾミが落ちた場所へと近づこうとしていたリョウを、引き留めるかのように必死で説得してくる。

だがもうどうしようもないと暗い気持ちで考えるリョウに、再び携帯が音を鳴らした。母からのメールだった。文面を読んだリョウはうっすらと笑った。

 

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最後、リョウがどうなったのかは読者に判断がゆだねられています。

ボトルネックという言葉の説明、リョウの立ち位置、パラレルワールドで「自分がいない世界」が良くなっていた事を自分の代わりに存在しているサキ自身から突き付けられたリョウが取る行動は、なんとなく想像がつきます。