古典部シリーズ2冊目となる「愚者のエンドロール」のあらすじと感想をまとめました。
一つの謎に対して幾通りもの解答が飛び出してくるという、なかなか頭を使いつつも楽しい一冊でした。普段なら謎に対して徐々に的を絞っていって犯人を見つけていくものでしょうが、「愚者のエンドロール」は反対にどんどんと視野を広げていっていくのが興味深かったです。
「愚者のエンドロール」書籍概要
古典部シリーズ第2弾。途中までしか書かれていないミステリーの自主映画の脚本について、奉太郎を中心とした古典部の面々でラストを探っていく。
- 愚者のエンドロール(2002年8月/角川スニーカー文庫)
- 愚者のエンドロール(2007年/角川文庫)
千反田えるに誘われて2年F組の自主映画を見に行った奉太郎、里志、摩耶花たちだったが、ミステリーをテーマとしたその映画は、廃村へとやってきた生徒役の一人が密室状態のなか腕を切られて死んでいたというシーンで唐突に終わっていた。
えるに声をかけた2年F組の女性・入須冬美は、脚本を担当しているクラスメートが病気で倒れてしまったため、誰が犯人なのか分からない状態のままストップした映画のラストを推測してほしいと古典部に依頼をしてきた。
古典部は、映画製作に携わった2年F組の何人かに話を聞き、彼らの考えているラストの是非を検証するオブザーバー役を引き受けることになった。
登場人物
- 折木奉太郎:1年生。古典部
- 千反田える:1年生。古典部部長
- 福部里志:1年生。古典部
- 伊原摩耶花:1年生。古典部
- 入須冬美:2年F組の自主映画のとりまとめ役。女帝の綽名を持つ
- 本郷真由:2年F組。脚本担当
- 中城順哉:2年F組。助監督
- 羽場智博:2年F組。小道具係
- 沢木口美崎:2年F組。広報担当
古丘廃村殺人事件
脚本を担当していた本郷真由は、脚本を書くのもミステリーというジャンルも初めてだった。そのためシャーロックホームズの本などを資料として読み、推理小説を書く上でのやってはいけない10のルール「ノックスの十戒」も勉強し、映画を見た人に対しフェアな犯人捜しを構想していたと思われた。
またどんな凶器を使うのか、何人の被害者が出るのかなどは真由に一任されていた。
奉太郎たちが一番最初に話を聞いたのは、実際に廃村へ赴いた撮影班の一人、助監督の中城だった。中城は、映画を見る人にとってトリックは重要ではなく、犯人はお前だという派手な演出と涙ながらに犯行を語る犯人がいればドラマが決まると主張し、「古丘廃村殺人事件」とストレートな映画のタイトルにして客を呼ばなければならないと言う。
犯人は窓から脱出したという持論を展開したが、窓の外には夏草が生い茂り、誰かが踏み荒らした痕跡は見受けられなかった。
古典部は、中城の案は映画の後半部分にはそぐわないと結論を出した。
不可視の侵入
2番目は小道具係の羽場だった。ミステリー好きの彼の案は、2階の窓からザイルを伝って犯人が出入りしたというトリックだった。この方法を用いれば人の目をかいくぐって犯行を行うことが可能であり、真由が脚本の中で必要な小道具としてザイルを書いていたこととも一致する。つけた映画のタイトルは「不可視の侵入」。
だが今まで撮影されたシーンから事件現場となった廃村の施設の立て付けが悪く、窓の開閉も難しかったことが明らかになった。羽場の語る犯人像・ザイルの扱いにも慣れている登山部の女性生徒案は却下された。
Bloody Beast
3人目は広報の沢木口だった。広報担当のため、撮影には直接関わっていない。真由が7人目の出演者を探していたこと、人によってはミステリーの定義がホラーやオカルトにまで及ぶことなどを語り、犯人捜しは関係のない映画だったと自説を展開していった。
沢木口の唱える犯人は、7人目の登場人物である壁をすり抜ける怪人という怨霊ネタだった。タイトルは「Bloody Beast」。
密室トリックも何もないある意味完璧な推理だが、ホラーにしては真由が用意するよう指示した血糊の量が少なすぎることから、この案も却下された。
万人の視覚
面談予定の3人の案はすべて却下され、古典部の役割は終わったはずだった。だが入須の説得により、奉太郎は独自に映画のラストを考えてみることになった。
劇中で廃村へと向かったメンバーは7人。6人の登場人物とカメラマンだった。途中まで上映された映像が素人丸出しの稚拙なカメラワークだったことから、奉太郎は真由が考えていた7人目の人物はカメラマンではないかと推測した。カメラマン自身が役者の一人だったとは誰も思わないに違いない。映画のタイトルは「万人の視覚」だった。
入須は奉太郎の案を採用し自主映画は完成した。探偵役が務まったことに満足した奉太郎だったが、真由が強く求めていたザイルが出てこないことを摩耶花に指摘され、里志にもシャーロックホームズを参考文献にしていた真由にとってはありえない犯人像だと言われてしまう。
そこから改めて考えた結果、奉太郎が出した結論は全く別の物だった。それを入須へとぶつけて奉太郎が得たものは、入須が求めていたものは探偵役ではなく、映画の続きを書くことのできる推理作家だったという事実だった。
映画を完成させるという目的のためだけに、入須は奉太郎の才能を持ち上げ利用したのだった。
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2年F組のトラブルは無事に解決しましたが、奉太郎自身は傷つけられた終わり方となり、後味が悪いというより切なさを強く感じるラストになりました。
本編のラストのえるの一文をはじめにきいていれば、奉太郎もすんなりと真由の考えをトレースできていたのだろうなと思います(そうなら映画は未完成のままだったかもしれませんが)。