米澤穂信「古典部」シリーズ第5弾『ふたりの距離の概算』あらすじとほんのりネタバレ感想

「ふたりの距離の概算」のあらすじと感想をまとめました。今回の舞台はマラソン大会です。古典部の4人は2年生になり、新入生が1人入ってきました。けれど本入部を前にして退部してしまいます。その責任を感じているえるのため、本当の退部の理由は何だったのかを奉太郎が20kmのマラソン中に解明していく話です。

20kmのマラソンが学校行事であるなんて地獄ですね。私なら最初から最後まで歩いて遠足にしそうです。

「ふたりの距離の概算」書籍概要

古典部シリーズ第5弾となる長編もの。身の回りで起こる日常の謎を解いていくもので、今回は新入部員の退部の理由とそれぞれが持つ他人との距離感を描いている。

  • ふたりの距離の概算(2010年6月/角川書店)
  • ふたりの距離の概算(2012年6月 角川文庫)

神山高校星ヶ谷杯、通称マラソン大会が始まった。20kmという長丁場だが、その間に奉太郎には解決しなければならない問題があった。古典部の新入部員・大日向友子の唐突な退部の理由だ。1,000人近い全校生徒が公道を走るため、マラソン大会はクラスごとに3分間隔で時差スタートする。総務委員会の里志はマラソンを免除されマウンテンバイクで大会が恙なく終了するよう気を配っているのでしょっちゅう話ができない。2年A組の奉太郎のチャンスは3回、ゆっくり走って自分の後からスタートするC組の摩耶花、H組のえるに追い抜かされがてら手短に話を聞き出し、1年の大日向と話をすること。

3年生が全員スタートしていき、いよいよ奉太郎も走り始めた。

登場人物

  • 折木奉太郎:2年A組
  • 福部里志:2年D組。総務委員会副委員長
  • 伊原摩耶花:2年C組
  • 千反田える:2年H組
  • 大日向友子:1年B組。古典部に仮入部中だった。奉太郎、里志、摩耶花と同中出身。

マラソンスタート

4月、えると奉太郎は他の部活にならって新入生の勧誘を行っていた。学校の玄関口にずらりと並べられた机の一角に古典部の席もあったが、あまり熱心に声かけをしない2人の所に立ち止まる1年生はほとんどなく、ほぼ全員が通り過ぎていく。立ち止まらない原因の一つに、真正面のブースで製菓研究会がクッキーと紅茶を振るまっているのもあった。だが有効活用されていない大型テーブル、季節外れのジャック・オ・ランタン、使わない卓上コンロとやかんというちぐはぐな勧誘をしている製菓研究会の謎について2人が推理していると、1人の新入生が声をかけてきた。大日向友子だった。仲良しオーラを感じると言って彼女は古典部に入部した。

件の日、部室にはえると大日向、奉太郎がいた。本を読む奉太郎は2人の話をほとんど聞いていなかった。気が付いた時には大日向は部室から姿を消し、入れ違いでやってきた摩耶花が、大日向が退部する旨を告げたのだ。そしてえるが退部の責任を感じていた。

6分遅れでスタートした摩耶花との距離を概算しつつ奉太郎が走っていると、マウテンバイクの里志がやってきた。里志は摩耶花から大日向が退部時に言った言葉を聞いていた。千反田えるが仏様のようだというニュアンスの言葉だ。奉太郎を追い抜かしていく摩耶花からかろうじて聞けた質問の答えは「千反田先輩は菩薩みたいに見えますよね」だった。

4月に奉太郎の誕生日があった。お互いの誕生日を祝うことのない古典部のメンバーだったが、大日向の「友達の誕生日は祝われなきゃいけない」という主張により、奉太郎の家にお菓子とケーキを持って全員が集まった。ピザでも取るか尋ねる奉太郎に摩耶花がチーズが苦手なことを伝えると、大日向が摩耶花もチーズがダメなのかと反応し「友達が言っていたけれど、腐ったミカンと牛乳は捨てるべき」と応じた。大日向は会話の頭に「友達の言葉」を引き合いに出す癖があった。古典部のメンバーの中でえるだけ出身中学が違うが、顔が広く奉太郎や里志の中学時代の話を知っている事などで盛り上がった。

また十数日前、大日向の頼みで彼女の従兄が近々オープンを控えているという喫茶店へとモニターに行くことになった。名前は決まっているけれどまだ看板が出来ていないというお店の名前を当てようとしたり、雑誌に載った詐欺事件の話をしながらコーヒーとスコーンを出して貰ったりしながら楽しい時間が過ぎていった。スコーンにはジャムとクリームがついていて、ジャムはいちごかマーマレード、クリームは生クリームかマスカルポーネクリームのどちらかが選べた。奉太郎はいちごと生クリーム、里志はマーマレードとマスカルポーネ、摩耶花はマーマレードとプレーン、大日向がいちごとマスカルポーネと全員が被らないパターンが揃い、親戚の喜寿のお祝いで遅刻してくるえるはスコーンは食べなかった。奉太郎は、大日向が唐突にえるに尋ねた「阿川」という子を知っているかという質問が引っかかっていた。知っているとえるは答えたが、大日向の意図していることが分からず不思議そうにしているのが印象的だった。

H組のえるに追い抜かれるまでにある程度整理して質問を用意しておかなければならない。奉太郎は、大日向が退部をした日の出来事を頑張って思い出そうとしていた。あの日、部室へと向かった奉太郎は、部室近くの教室の桟にぶら下がっている大日向を見かけた。何をしているのか分からないがどことなく気まずいまま2人で部室へ入ると、えるがいた。いつも通りの定位置で本を取り出す奉太郎の耳に、近くに座っていいかという大日向の声と了承するえるの声が聞こえていた。しばらくののち、「はい」という唐突なえるのこえと、いつもと様子の違うえるの表情、再び読書に没頭し区切りのいいところでやってきた摩耶花による大日向の退部発言……奉太郎が読書に集中している数十分間でえるが大日向を怒らせるような何かをしたのか、もしくは仮入部をしてからの数十日に大日向の中でえるに対して思うことが溜まっていったのか。おそらく後者だろうと奉太郎は結論付けた。

やってきたえると奉太郎はコースから離れたところで話をはじめた。えるによると、あの日、席を外した大日向の携帯電話に着信があり代理で出ようと思って手のひらに乗せていたらしい。携帯を持っていないえるは使い方が分からず結局電話に出ることはなかったのだが、そのことが大日向の逆鱗に触れたのだろうとえるは考え、責任を感じていた。そして奉太郎に請われるまま、その時の大日向との会話を再現していった。

えるが再びマラソンに復帰していき、奉太郎は間もなく走ってくるだろう大日向を待つばかりとなった。奉太郎の提案でコースアウトすることになった2人は、団子屋で休憩することになった。そこで奉太郎は大日向に向かい、自分の推理を話して聞かせる。

ゴール前

奉太郎の話で自分の中でえるに対する誤解があったことを認めた大日向でしたが、古典部に入部することはありませんでした。

そして奉太郎と大日向のコースアウトが報告され探しにやってきた里志に対し、「外の問題だった」とだけ伝えて奉太郎もマラソンに復帰しました。まもなくゴールである神山高校が見えてくる場所でした。

 

奉太郎の中では解けた誤解(謎)でしたが、お互いに思い違いをしたまま別れた大日向とえるの間ではわだかまりは残り続けているものと思われます。大日向の悩みと退部の原因が古典部にないと知り、奉太郎はそれ以上は大日向の問題に深く関わろうとはしませんでした。彼女の問題は彼女自身が解決すべきと考えているのか、あまり他人に踏み込まれたくない大日向の気持ちを汲んだのか、苦みの残る終わり方だったと思います。ミステリーというより青春小説という印象が強い一冊でした。