米澤穂信「古典部」シリーズ第3弾『クドリャフカの順番』あらすじとネタバレ感想

文系の部活動が活発な神山高校古典部の4人が身の回りの日常的な謎を解くシリーズの3冊目「クドリャフカの順番」のあらすじと感想をまとめました。今回は文化祭が舞台です。

クドリャフカというのは旧ソ連のスプートニク2号に乗せられて初めて地球の衛星軌道上を周回した犬の名前ですが、特に知らなくても大丈夫です。私はこの本で初めて知りました。

「クドリャフカの順番」書籍概要

古典部シリーズ第3弾となる長編。

  • クドリャフカの順番(2005年6月/角川書店)
  • クドリャフカの順番(2008年5月/角川文庫)

 

何をしているのか誰にも分からない部活だけれど何もしないわけにはいかない。文化祭で出品する文集「氷菓」を作った古典部の4人だったが、30部作るつもりが手違いで納品されたのは7倍の200部。30部でも余るだろう「氷菓」を3日間ある文化祭(通称カンヤ祭)で完売させなければならない。思わぬ事態に眠れぬ夜を過ごす4人だったが。

登場人物

  • 折木奉太郎:1年生。古典部メンバー。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」の省エネ主義
  • 福部里志:1年生。古典部、手芸部、総務委員会ほかに所属。楽しむことに全力を尽くす自称「データベース」
  • 伊原摩耶花:1年生。古典部、漫画研究会、図書委員会に所属。
  • 千反田える:1年生。古典部部長。
  • 陸山宗芳:生徒会長、カンヤ祭実行委員長
  • 田名辺治朗:総務委員長
  • 河内亜也子:2年生。漫画研究会で摩耶花と意見が対立
  • 十文字かほ:1年生。占い研究会所属(部員はかほのみ)

文化祭始まる

特別棟4階という盛り上がる文化祭の中ではかなり不利な立地の古典部は、まず部活の知名度を上げる作戦をとることにした。漫研で忙しい摩耶花が戦力になれないなか「氷菓」の完売を目標に、奉太郎は店番、里志とえるはそれぞれのやり方で古典部と「氷菓」の宣伝を行うことになった。様々な部活の催しを楽しみつつうクイズ研究会主催のクイズ大会に参加した里志は無事ファイナリストになり、氷菓の宣伝役を務める。一方えるは、総務委員長の田名辺に販売場所の拡大を交渉に行ったが事前の申請がないと難しいと断られてしまう。文化祭の誘惑に駆られつつも人脈をたどって「氷菓」を置いてくれる場所(委託販売先)を探し歩く中、十文字かほの占い研究部に行き当たる。えるを占ってくれるというかほだったが、タロット占いだけはできないという。「ホイール・オブ・フォーチュン」のカードが無くなり、代わりに『占い研究会から 運命の輪は既に失われた  十文字』というグリーティングカードが残されていたからだった。

クイズ大会に参加した里志はなぜか自分をライバル視してくる囲碁部の谷からおかしな話を聞いた。碁石がいくつか盗られたらしく、メッセージが残されているというものだった。ただ、いくつ盗られたのか分からないうえ盗られたところで全く影響がないので大事にはなっていなかった。

頻繁に客が来るわけでもない古典部の部室では、奉太郎が聞こえてくる文化祭の賑わいを耳にのんびりと店番を務めていた。里志がクイズ大会で宣伝してくれる声も消えてくるし、アカペラ部の歌も聞こえてくる。その歌声を堪能していた奉太郎だったが、彼らの休憩中に何やらトラブルがあったらしい。あとで確認すると用意していた飲み物がなくなっていたようだった。

一方漫研にかかりきりの摩耶花は、先輩の亜也子とちょっとした言い合いをしていた。亜也子の言い分に否定的な摩耶花は、自分が昨年の文化祭で購入して衝撃を受けた漫研の冊子に掲載されていた漫画「夕べには骸に」を見せると豪語したが、家のどこを探しても見つからない。ひとまず言い合いは棚上げになり、漫研でのポスター描きに忙殺されていた。

文化祭2日目

店番をしている奉太郎の所へはポツリポツリと客がやってくる。客たちに「氷菓」を売りつつも、その場の流れで姉から貰った壊れたボールペン→手作りのワッペン(安全ピン)→水鉄砲→小麦粉と全然レベルアップしないわらしべプロコトル(物々交換)を行っていた。

里志はお料理研究会主催のイベント・3人一組で出場する料理大会「ワイルドファイア」にチーム古典部として参加するため、えると摩耶花を誘っていた。グラウンドで行われる料理対決は、無難にこなした里志、料理上手なえると奉太郎の不思議なサポート、機転を利かせた摩耶花の料理によって見事優勝をかざった。だが対決中、摩耶花がおたまがないと困っていた。きちんと準備したはずのお料理研究会らとイベント終了後に探すと、『お料理研から おたまは既に失われた 十文字』というカードを発見した。えると里志が似たような話を知っていると驚く。

古典部の部室に集まった4人は、自分たちの知っている話を持ち寄って検証する。その結果、

  • アカペラ部:アクエリアス
  • 囲碁部:石(碁石)
  • 占い研究会:運命の輪(タロットカード)
  • 園芸部:AK(水鉄砲)
  • お料理研究会:おたま

がそれぞれ無くなり、十文字を名乗るカードと「カンヤ祭の歩き方」というしおりが残されていることが分かった。しおりには50を超える参加団体と執行本部のメンバーそれぞれの一言コメントが載っている。「あ」のつく部活で「あ」の付くアイテム、「い」のつく部活で「い」の付くアイテムというアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」を模した盗難騒ぎが起きていることに気づいた古典部メンバーたちは、十文字というのは五十音順の「あ」から「こ」までの10文字、つまり最終的には古典部もターゲットになるのではないかと推測する。

上手く事を運べば、十文字事件に便乗して古典部の宣伝ができる。文化祭中、しょっちゅう号外を発行している壁新聞部に十文字事件を取り上げてもらえるよう交渉へ行ったえるは、壁新聞部からカッターナイフが盗られたことを知った。

里志は奇術部の公演に来ていた。店番で動けない奉太郎に代わり次に十文字が狙う先だろうと目星をつけて来たのだ。公演中に「き」の付く何かを盗む犯人を見つけよう(「こ」まで行ってくれないと困るので捕まえはしない)と頑張る里志だったが、公演が終わりに近づくころ部屋にあるキャンドルが一つ欠けていることに気づいた。十文字は公演が始まるより前にすでに犯行を終えていたのだ。

文化祭3日目

里志は朝早くから「グローバルアクトクラブ」のパネル展示会場に向かった。十文字が次に狙うのはおそらくここだろうと目星をつけてのことだったが、この部活からは何も取られないまま、軽音部から「弦」が盗まれたという情報が入った。

摩耶花から小麦粉の代わりに受け取ったハートのブローチとメモ置きトイレのため席をはずした奉太郎は、戻ってくると200円とブローチの代わりに1冊の本が置かれているのに気づいた。どうやら留守のあいだに姉が来ていたらしい。暇を持て余していた奉太郎はその冊子・去年の文化祭で漫研が出品したものを手に取った。「夕べには骸に」の作者・安心院鐸玻(あじむたくは)のあとがきには、この作品は原作・作画・背景と3人で描いたこと、来年(つまり今年)の文化祭にはアガサ・クリスティーの超有名作品をひねった次回作「クドリャフカの順番」を発表するつもりであることが記されていた。

「夕べは骸に」の絵に見覚えがあるというえるは、その正体を確認するため文化祭の宣伝ポスターが貼ってある総務委員会の控室へ向かっていた。

漫研でポスター描きに専念していた摩耶花は、対立するグループから絵の具で汚れた水を掛けられるという事態に面していた。着替えのため漫研を離れた摩耶花はそのまま古典部へ合流する。その途中にすれ違ったえるが持っていた去年の漫研の出品冊子を目にし驚き、奉太郎から冊子を借りて亜也子の所へ向かう。

文化祭中に起きた十文字事件、えると摩耶花から聞いた「夕べには骸に」に関係する話、姉が持ってきた去年の漫研の冊子(「夕べには骸に」のあとがき)などから事件の全貌が見えてきた奉太郎は「氷菓」を完売させるため、十文字事件の最終ターゲット「古典部」を舞台に里志の協力を仰いで一計を案じた。

まとめ

十文字事件の犯人との直接対決をし、無事に事件解決と「氷菓」完売を達成した奉太郎たちでしたが、一方でさまざまな思いや禍根が残る文化祭となりました。

 

4人の視点がくるくると入れ替わることにより、文化祭の雰囲気やそれぞれの視点でしか見えない事象を私たち読者が俯瞰できる構成になっていて、文句なしに楽しい一冊でした。青春という感じです。母校の文化祭はここまで盛り上がりませんでしたが、懐かしいです。

ミステリー部分については、去年の漫研の冊子(「安心院鐸玻の『夕べには骸に』)が鍵となっており、この冊子がなければ謎が解けないという構図でしたので、最終的に手に入ったとはいえ偶然に頼った要素が非常に強い印象を受けました。奉太郎の姉が去年の冊子を持って文化祭を見に来るという不自然さが気になります。

いくつもの小さな点を一つの線につないで「氷菓」の完売に至る流れは鮮やかでした。

今回漫研で起きた一連の騒動は「いまさら翼といわれても」に収録されている短編「わたしたちの伝説の一冊」で一応の完結の目を見ます。