米澤穂信「古典部」シリーズ第4弾『遠まわりする雛』あらすじとネタバレ感想まとめ

古典部シリーズの短編集「遠回りする雛」のあらすじと感想をまとめました。

こちらは奉太郎たち古典部のメンバーが神山高校に入学してからの1年間を、7つの日常とそこで起きたちょっとした謎とともに収めています。

日常ミステリーであると同時に青春ものでもありますね。甘酸っぱい気持ちになりました。

「遠まわりする雛」書籍概要

古典部シリーズ4冊目となる短編集。「やるべきことなら手短に」「大罪を犯す」「正体見たり」「心あたりのある者は」「あきましておめでとう」「手作りチョコレート事件」「遠まわりする雛」の7作品を収録

  • 遠まわりする雛(2007年10月/角川書店)
  • 遠まわりする雛(2010年7月/角川文庫)

 

やるべきことなら手短に

神山高校に入学しそろそろ4月が終わりに近づき始めた放課後の教室で、奉太郎は家に忘れてきた宿題「入学一ヶ月の実感と今後の抱負」に取り組んでいた。適当に書けばいいというアドバイスをしながら、里志は特別棟にある音楽室の怪談について語り出す。下校時間が近い頃、ある女子生徒の耳にピアノ曲「月光」が聞こえてきた。だが音楽室に行くとピアノの前には誰も座っていない。その代わり教室の隅にいた、神山高校の制服を着た見るからにぐったりと体から力が抜けたような血走った目の乱れ髪の女性生徒を目撃したというものだった。その日の音楽室はたった一人のピアノ部が使う日だったが、その生徒は怪我をしてピアノを弾くことができなかった。

その後隣のクラスのえるが教室にやってくる。好奇心を爆発させられてはたまらないと奉太郎は学校七不思議のひとつ「秘密倶楽部の勧誘メモ」の話をするよう里志に促した。それは活動目的も不明、実体も掴めない「女郎蜘蛛の会」が、無許可で掲示板に勧誘メモを貼っているという内容だった。本当に掲示板にそんなメモがあるのかどうか、あるとすればどの掲示板なのか、3人は実際に確かめてみることにした。

 

特別棟は遠いのです。ピアノの怪談についてえるが興味をもてば、奉太郎もそこまで行かざるを得ません。それを回避するため、掲示板という近場で解決できる秘密倶楽部の勧誘メモの謎を自らぶつけることで、手短に済ませるのでした。「やるべきことなら手短に」というモットーにそった奉太郎らしい手法でした。

大罪を犯す

6月のある日の授業中、奉太郎は壁越しに隣のクラスのえるが声を荒げて怒っているのを耳にした。内容までは分からないが珍しい事だった。古典部でその話が出た。その日、えるのクラスは数学の授業だった。先生がある生徒を指名し問題を出したものの、その生徒は答えられなかった。別の生徒も答えることができず先生は怒り出す。だが先生が出した問題について、えるのクラスではまだ習っていない。授業で何を聞いていたのかと憤る先生に対し、えるは授業の進度に誤解がないか確認してもらうよう怒ったのだった。複数のクラスの数学を受け持つ先生は、教科書にどこまで授業を進めたのかメモをしている。それなのに、なぜえるのクラスの授業範囲を間違えたのか。なぜ、教科書のメモを再度確認したことによって勘違いしていたことに気づけたのか、なぜ自分は怒ったのかとえるが不思議がる。

 

先生はA組のえるのクラスに、進みの早いD組の授業を行っていたようです。なぜ間違って別のクラスの授業をしてしまったのか(先生がどんな風にメモをして勘違いを起こしたのか)を推測していきました。数学教師ならではの間違いでした。

大罪というのは、キリスト教の七つの大罪「傲慢、大食、強欲、嫉妬、色欲、怠惰、憤怒」のことで、今回はそのうちの一つ、憤怒がテーマになっていました。

正体見たり

8月、古典部は合宿と称して摩耶花の親戚が経営する温泉旅館へと行くことになった。そこには摩耶花のいとこ、活発な梨絵と大人しい嘉代の姉妹がいた。その旅館は本館と別館があるが、以前本館で首を吊って自殺した人が出て以降何かを見たり病死したりと不幸が続いたため、現在は客室として利用されていない。翌朝、摩耶花が真向いの部屋、本館の窓に首吊りの影を見たと言い出した。寝ぼけていただけだろうとあしらうつもりが、同じ部屋に泊まっていたえるも同じものを見たと言い出す。気になると好奇心を発揮したえるには抗えず、幽霊の謎について調べることになった。

 

えると摩耶花が見た影の正体はもちろん幽霊ではありませんでした。幽霊ではないことに安心したかもしれませんが、なぜそのような行動をとったのかという理由に行き当たった時、えるの憧れも少し苦いものになったようです。

心あたりのある者は

11月1日、部室にいるのはえると奉太郎の2人だった。奉太郎の推理力を褒めるえるに対し、奉太郎はその認識を覆すため、さきほど唐突に流れた校内放送「10月31日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」について、どういう意味で行われたのか推論を立てることになった。

 

たった1度だけ流れた校内放送から推理を組み立て、思いもしない犯罪性を持った事件へと推論が流れていく過程が秀逸でした。奉太郎の推理は的を射ていたことが後日判明するのですが、自分の推理は称賛されるものではないと証明するつもりが、真逆の結果になるという落ちも面白かったです。今作品内では一番好きな話です。

あきましておめでとう

元旦、えると奉太郎は荒楠神社に参詣していた。えるの家の挨拶周りと、摩耶花が巫女姿でアルバイトをしているのを冷やかすためだ。神社の人々が慌ただしく動くなか、事務所内で手持無沙汰のえると奉太郎は参拝客にふるまう甘酒づくりを手伝うため、蔵に酒粕を取りに行くことになった。だが奉太郎の勘違いで着いた先は古めかしい納屋だった。間違いに気づいたちょうどその時、納屋の扉は締まり頑丈な閂の音とともに奉太郎たちは納屋に閉じ込められた。携帯電話も持たないなか、2人は騒ぎを起こさずに納屋から脱出する方法を考えなければならなくなった。

 

納屋から脱出する方法、社務所にいる摩耶花に助けを求める方法、摩耶花のところに来ているだろう里志に助けを求める方法と、目的に応じて色々なSOSを出すことができる奉太郎が凄いです。そして奉太郎の出した暗号ともいえるSOSを瞬時に読み解いて助けに向かう里志も、同じように凄いです。親友同士、お互いの性格を知ってないと不可能な方法でした。

手作りチョコレート事件

中3の時に里志に受け取ってもらえなかったチョコのリベンジに燃えた摩耶花の気合が入ったバレンタインの一品が、古典部の部室から消えてしまった。放課後は漫研の方に行くため、あとで古典部に顔を見せる里志が持って帰ることができるようにと置いておいたものだ。自分が部室から離れた15分ほどの間になくなってしまったことに責任を感じたえるに協力する形で、図書館で天気が回復するのを待っていた奉太郎はチョコレートの行方を捜すことになった。

部室へと行くためには2通りの階段があるが1つは封鎖されており、もう1つはポスターを貼るため工作部が踊り場にずっといた。える、奉太郎、里志の3人以外は誰も通っていないという。また古典部と同じ階にある天文部には5人の生徒がいたが、全員がチョコレートに心当たりはないと主張した。

 

複雑な男心のなせる技でした。チョコレートが消えた謎については奉太郎が解いたのですが、主軸となっているのは里志と摩耶花の関係でした。

遠まわりする雛

春休み。えるに頼まれて「生き雛まつり」でお雛様に扮するえるに傘を差し掛ける役目を引き受けた奉太郎は、えるから聞いた道順をたどり自転車で水梨神社へと向かっていた。その途中で渡った長久橋では、まもなく工事が始まり完全に通行止めになるという。

水梨神社では生き雛まつりの行列の準備で大わらわだった。行列が長久橋を通ることを耳にした奉太郎が、通行止めになっているという話を口にした途端騒ぎが一段と大きくなった。えるの取りなしで遠回りのルートへと変更し無事に雛行列が村を一周することができたが、えるは気になるという。行列の日、長久橋は工事をしないことになっていた筈なのに、何者かが工事を引き受けている工務店に電話をして作業に取り掛からせ、雛行列が長久橋を通れなくなるよう仕向けたのだ。

 

長久橋を通行止めにした犯人について、社務所で騒ぎを聞いていた奉太郎と、村の人間関係にも詳しいえるの見解は一致していました。えるは消去法、奉太郎は論理的に犯人像を絞っていった結果です。

えるが思い描いている自らの将来像と、それを聞いた奉太郎の胸の内で起こった気持ちの変化に注目です。青春ですね、大いに悩んで迷ってほしいところです。