米澤穂信『さよなら妖精』あらすじとネタバレ感想

米澤穂信さんの「さよなら妖精」のあらすじと感想をまとめました。

ベルーフシリーズの主人公・太刀洗万智も登場する(しかも高校生)長編ものです。ユーゴスラヴィアから日本にやってきた少女マーヤが祖国に帰国するまでの約2か月間を描いたもので、ラストが切なすぎます。

今はもうユーゴスラヴィアという国名はありません。彼女がユーゴスラヴィアのどこから来たのかが最終的な謎解きになっていました。

「さよなら妖精」書籍概要

雨宿りをする彼女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。初期の大きな、そして力強い一歩となった、鮮やかなボーイ・ミーツ・ガール・ミステリをふたたび。「BOOK」データベースより

  • さよなら妖精(2004年2月/東京創元社ミステリ・フロンティア)
  • さよなら妖精(2006年6月/創元推理文庫)
  • さよなら妖精(2016年10月 /東京創元社)※新装版
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守屋と万智は学校からの帰り道、降りしきる雨の中途方に暮れている少女と出会った。彼女の名前はマーヤ。ユーゴスラヴィアから2か月の予定でホームステイにやってきたものの、ステイ先の主人が亡くなり行き場を失っていた。

旅館を経営するいずるの家で手伝いをしながら滞在することになったマーヤは、日本語も堪能で、守屋、万智、いずる、文原の4人の高校生と交流を深めていく。

登場人物

  • マーヤ:マリヤ・ヨヴァノヴィチ。ユーゴスラヴィアからやってきた17歳の少女。
  • 守屋路行:主人公。高校3年生。
  • 太刀洗万智:友人。高校3年生。
  • 白河いずる:友人。マーヤの日本での滞在先を提供。
  • 文原武彦:友人。

あらすじ

1991年、ユーゴスラヴィアはスロヴェニア、クロアチア、セルビア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニアの6つの共和国からなる1つの国家だった。マーヤはその中のどこかの国からやってきて、そこへと帰っていった。帰国したら手紙を送ると約束したものの一向に連絡がない。

1年後の1992年、独立戦争の真っ最中のユーゴスラヴィアでマーヤが戦火に巻き込まれていないか心配した守屋といずるは、彼女の出身地を特定すべく資料を手に集まった。県外に進学した文原は欠席、万智は誘ったものの乗り気ではなく断られた。2人は当時の日記などをさかのぼりながら、マーヤの無事を祈願する。

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マーヤは好奇心の塊だった。メモを片手に気になったことは何でも知りたがる。口癖は「それに哲学的な意味はありますか?」。ユーゴスラヴィアでは尊敬を集めていた大統領が死んで以降、国ごとの経済格差の不満から独立をもくろむ動きが活発化していた。マーヤの夢は政治家になって、祖国ユーゴスラヴィアに7つ目の文化を作っていくこと。そのために積極的にさまざまなことを吸収していった。

「雨が降り傘を持っているにも関わらず傘を差さずに走った男」「神社に餅を持って行こうと会話する2人組の男の謎」「ある墓地に供えられた紅白饅頭の謎」「『いずる』という名前の由来」など、マーヤと4人が遭遇する謎を一番に解くのが万智だった。だが万智はいつも回答を守屋にゆだねようとする。マーヤとの交流の中で、守屋はユーゴスラヴィアに興味を持ち始め、日本の外の世界へ行ってみたいと思うようになっていった。

スロヴェニアが独立をするため動き出し、ユーゴスラヴィア内での紛争が始まった。もう止められないとマーヤは言った。そのうち他の国にも波及し自分の祖国も戦いの場になるかもしれないと。それでもマーヤは国へ帰ると言う。一緒にユーゴスラヴィアへ行くという守屋に対し、マーヤは自分は7つ目の文化を作る政治家になるために色々な国を見て回った、守屋は何をするためにユーゴスラヴィアへ行くのかと問いかけ、観光に命を懸けるのはダメだと切り捨てると祖国へと帰っていった。

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スロヴェニアから始まった紛争はクロアチアへと広がり、ボスニアヘルツェゴビナに飛び火して首都サラエヴォは包囲され激しい戦闘の中にあった。

守屋といずるは、マーヤとの会話の中からヒントを探し出し消去法で出身地を絞っていった。

  • スロヴェニア:独立を承認されひとまず安全
  • クロアチア:戦争状態で危険
  • セルビア:今のところ安全
  • ボスニア・ヘルツェゴビナ:死者三千人を出す戦争状態が続き危険
  • モンテネグロ:安全
  • マケドニア:難民流入で治安悪化は懸念されるものの、ひとまず安全

守屋といずるが出した答えは「セルビアかモンテネグロのどちらか」だった。どちらが正解でも安全だと分かり解散した。

だが帰り道、守屋は考え続けた。いずるとの協議は不十分だったのではないか。いずるはマーヤは安全な国にいると自分を安心させるためざっくりと国を絞っていった。だがもっと他のヒントを有効に考えるべきではないか。更に一人で検討を続けた結果、守屋の中には別の国がマーヤの故郷としか思えなくなった。

その晩、万智から電話が入り会うことになった。万智はとっくにマーヤの故郷を知っており手紙を送っていた。その返事を今すぐ守屋に読めと突き出してくる。そこには、祖国に戻ったマーヤのその後が綴られていた。

 

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元々は「古典部シリーズ」の完結編として書き始めたものを、諸事情により「さよなら妖精」として改稿、出版されたようです。言われてみるとどことなく古典部の面々の面影みたいなものも覗けます。

先にベルーフシリーズを読んでいたので「さよなら妖精」のラストは予想がついていたのですが、それでも衝撃を受けました。1991~1992年頃の舞台設定ですが、今読んでも全然色あせない小説です。