米澤穂信「小市民」シリーズ第1弾『春期限定いちごタルト事件』あらすじとネタバレ感想

米澤穂信さんの「春期限定いちごタルト事件」のあらすじと感想をまとめました。

波風を立てず人の中に紛れ込む小市民を目指す小鳩常悟朗と小佐内ゆきが、進学した先の高校で小さいながらも次々と事件に関わっていくという話です。

2人が小市民を目指すきっかけになった事件が気になります。

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「春期限定いちごタルト事件」書籍概要

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。「BOOK」データベースより

  • 春期限定いちごタルト事件(2004年12月/創元推理文庫)

羊の着ぐるみ

小鳩常悟朗と小佐内ゆきは揃って船戸高校に合格した。他の生徒たちに交じり慎ましく高校生活を送るつもりが、再会した小学校の同級生で新聞部の堂島健吾に呼び出されてみれば、盗まれたポシェットを探すのを手伝ってほしいという。ポシェットは手帳やリップクリームなどが入った横幅30センチくらいのやや大きめのもの。6時間目の体育が始まる前はあったが、授業後にはなくなっていたという。30分だけという約束で、常悟朗は健吾によって集められたメンバーとともに校舎内を探すことになった。

担当の2階を探し終わった頃、健吾から電話が入り合流することになった。やってきた健吾は、合流しようと思った高田がちょろちょろと動き回って捕まらないと憤っていた。電話で連絡はとれるものの合流場所を決める前に高田が電話を切ってしまうのだという。再び高田から電話が来た。今は外にいるという。窓から見ると、昇降口から少し離れたあたりで大きく手を振っている高田がいた。結局ポシェットは見つからず、盗られた女子生徒は翌日被害届を出すと言った。

昇降口前では小佐内が待っていてくれた。ポシェットの件を話して聞かせると、心当たりがあるのかと問われ頷いた。雨の中ジャージ姿で外に出るとどうなるのかという問いから常悟朗は、ずっと昇降口に立っていた小佐内に、この30分の間に何度も携帯電話を使うジャージ姿の男子生徒を見なかったかと尋ねる。小佐内の返事を受けて雨に濡れない場所を探した常悟朗は隠されたポシェットを見つけ出した。

 

間が悪く犯人と鉢合わせましたが、ポシェットを犯人に渡した2人は穏便にその場をあとにしました。健吾からはポシェットが見つかったが犯人は見つからないとメールが届き、この件は決着となったようです。

For your eyes only

今日が最終日だというケーキ屋の「期間限定いちごタルト」を無事購入した小佐内と常悟朗は、小佐内の自転車のかごにタルトを入れ近くのコンビニに入った。コンビニでは柄の悪い高校生グループがいた。サカガミと呼ばれた自転車を取られたらしく何とかしろと先輩らしき男に怒られている。買い物を済ませた小佐内と常悟朗の目の前を、ものすごいスピードで自転車が走り去っていった。いちごタルトを乗せた小佐内の自転車だった。

新聞部の健吾が義理のある人からの依頼で断れなかった話を常悟朗に持ってきた。美術部の先輩はB5用紙に書かれた2枚の油絵を持ってきた。どちらもそっくりな絵が描かれており、2年前に卒業した先輩から託された絵だという。賞を取るほどの腕前の人間が描いたにしてはどう見ても上手といい難い2枚の油絵を、描いた先輩自身は世界で1番高尚な絵だと話していたらしい。時機がきたら取りに来るといったまま作者の連絡先も分からず2年が経過し、どう取り扱っていいか困っているという。要は落書きならば処分したいということだった。絵のタイトルは「三つの君に六つの謎を」だった。

探偵はしたくないと思いつつも片をつけるなら早い方がいいと常悟朗は、作者が在校時に新聞部から受けたインタビュー記事や絵のタイトルをヒントに、どういった意図で描かれた2枚の絵だったのかを解き明かした。

 

絵の真相自体はほのぼのとしたいい話だったのですが、結果、絵自体はゴミと判断されました。

おいしいココアの作り方

盗まれた小佐内ゆきの自転車の目撃情報があった。五百旗頭という学生が選挙の投票に出かけたすきに泥棒に入られたらしい。幸い印鑑はとられたが通帳は無事だった。現場で高校の駐輪許可シールを貼られた自転車を見ていた人物がおり、シールの番号からゆきの自転車と分かった。

休日、健吾の家に招かれた常悟朗とゆきは、健吾からおいしいココアを振舞われた。カップにココアの粉を入れ熱々のホットミルクを少量注いで練る。ペースト状になったココアに好みのミルク、砂糖を入れれば完成というものだった。

キッチンでは健吾の姉の知里が、ゆきを巻き込んで悩んでいた。健吾がどうやってシンクを濡らさずに3人分のココアを作ることができたのか。シンクにはココアを混ぜた跡の残るスプーン1個だけ。片手鍋を使った形跡もない。電子レンジでミルクを温めたところまでは分かったが、ミルクを温めるのに使った容器が見当たらないのだった。

健吾に聞くのは嫌だという知里に付き合い知恵を出し合っていた常悟朗とゆきだったが、常悟朗はふと思いついた。もともと洗わなくてもいいものでミルクを温めたのではないか。

 

3つしか使われていないカップと温めたミルクの移動方法に頭を悩ませていた3人でしたが、正解は単純なのものでした。単純すぎて全然思い至りませんでしたが、雑な健吾らしいと納得してしまう方法でした。

はらふくるるわざ

中間テストが終わり常悟朗はゆきに誘われてやってきたケーキバイキングで、彼女から最後の理科のテスト中、教室でガラスが割れたせいで思い出しそうだった答えが思い出せなかったという話を聞く。割れたのは空の栄養ドリンクだったのですぐに片付いたらしい。ゆきを店に遺して忘れた携帯電話を学校まで取りに行くことになった常悟朗は、こっそり無人のゆきのクラスで現場検証を行い、栄養ドリンクの瓶を割った犯人の意図を知ると証拠隠滅した。

ケーキ屋へと戻り、バイキングに満足したゆきとともに店を出た。しばらく歩いたところでゆきの様子が変わった。国道の向こう側をゆきの自転車に乗り危険なスピードで走っていくサカガミがいた。追いかけようもなく見ている2人の視界の中で、急坂の途中から自転車を押してのぼっていくサカガミがいた。

 

常悟朗が探偵を封印したがっているのは今までの短編から分かりますが、同じく小市民を目指すゆきが何を封じたがっているのか、片鱗が見えてきました。

孤狼の心

盗まれたゆきの自転車が見つかった。2人が目撃した坂を上りきり、少し下ったあたりに捨てられていたらしい。放課後、自転車を取りに行った2人は、自転車が捨てられていた現場で話をする。いったいなぜ、どういう理由でサカガミはこの場所に自転車を捨てて行き、どこへ行ってしまったのか。常悟朗よりもゆきの方が熱心だった。小市民になるためにお互い協力しあっているのに、ゆきの本性が表に出てしまう。冷静になるよう諭す常悟朗だったが、ゆきは止まらなかった。サカガミが急いでいたのはバスに乗るため、自転車を捨てて乗った無料の送迎バスの行き先は自動車学校。自転車を盗んだ償いをしてもらうと不穏な言葉をともに、ゆきと連絡が取れなくなった。

ゆきに危険が迫っていると健吾に協力を求める常悟朗だったが、健吾は常悟朗が推理を封印して嘘くさい笑顔を張り付けているのは気に食わないと難色を示す。過去に推理をしたことで逆恨みを買ったり何も自体が好転しなかったりを経験した結果、推理をしても感謝より敬遠されたり嫌われる方が多いことを知ったことを話して理解を求めるが、健吾はやはり今の常悟朗は気に食わないという。だがゆきを助けるため、なぜ彼女に危険が迫っているのかを話して聞かせることにした。常悟朗によるとそれは推理の連鎖で片がつく。盗まれた自転車が泥棒がおきた現場で発見されたことから、サカガミが何かの免許を取ろうとしていることをまでを論理だてて説明した常悟朗は、健吾とともに自動車学校へと乗り込んだ。ゆきがいた。

 

ゆきの無事を確認しいったん事件を手放した2人でしたが、後日新聞で5人の高校生が逮捕されたことを知ります。

小市民に戻ろうと決意を新たにする2人でしたが、その直後に起こった出来事により、再びゆきが本性を露わにしていました。小市民になるにはまだまだ修行が必要そうです。

 

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日常系ミステリーですが、常悟朗とゆきの設定が面白いです。タイトルからしてスイーツに関する謎がメインの甘ったるい話なのかなと敬遠していましたが、スイーツが事件の鍵を握るというような話でもなく、いつも通り面白かったです。続きも気になるシリーズですね。