米澤穂信「小市民」シリーズ第3弾『秋期限定栗きんとん事件(上)』あらすじとネタバレ感想

米澤穂信さんの「秋期限定栗きんとん事件(上)」のあらすじと感想をまとめました。

今回は上下編の上巻部分です。主人公の小鳩常悟朗と、瓜野くんという一学年下の新聞部の少年の視点が交互に入れ替わって話が進んでいきます。新聞をにぎわせる連続ボヤ事件がどう発展していくのか楽しみな一冊でした。

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「秋期限定栗きんとん事件(上)」書籍概要

あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。「BOOK」データベースより

  • 秋期限定栗きんとん事件(上)(下)(2009年3月/創元推理文庫)

第1章 おもいがけない秋

高校2年生の秋、夏休みの「夏期限定トロピカルパフェ事件」をきっかけに小佐内ゆきとの互恵関係を解消した小鳩常悟朗は、放課後に一人で教室にくるようメモで呼び出された。指定された時間に行ってみると、顔は知っているけれど名前は分からないクラスメートの女の子が待っており、常悟朗がゆきと別れたと知ったので自分と付き合おうと言う。小市民を装う常悟朗としては断る理由も必要もなく、2人は付き合うことになった。

新聞部の1年生・瓜野は、夏休みに起きた非行グループが仲間を誘拐したというニュースに船戸高校の生徒が関わっていると言う情報を知り学内新聞「月報船戸」に記事を書きたいと主張したが、部長の堂島健吾にそっけなく却下され続けていた。校内の記事ばかりではつまらないままだ、何か大きなことがしたいという瓜野に同じクラスの氷谷優人はエールを送るだけ。ままならない新聞部の活動に不満を抱えていた頃、瓜野は図書室の前に立つ背の低い女の子を見かける。以前、部長と話している姿を見かけたことがあり、その様子がとても印象深かった。名前だけは部長から聞いている。小佐内というそうだ。知らないうちにじっと見つめていたようで、彼女から声をかけられたのをきっかけに、彼女のおすすめのカフェへと一緒に行くことになった。

第2章 あたたかな冬

小佐内ゆきと付き合い始めて半月後、瓜野は毎月発行しているものの誰からも見向きにされずゴミ箱直行の「月報船戸」について愚痴をこぼす。学内新聞をもっと面白くするために学外の記事も取り入れたいと話す瓜野に、ゆきは応援すると言ってくれる。その一週間後、さっそくチャンスがやってきた。編集会議で部員の一人が、市民会館で開催されるチャリティーバザーに船戸高校から参加する生徒がいるのでコラムという形で取り上げたいと提案し、あっさりと通ったのだ。小さいけれど初めて学外の記事を書くことが許されたスペースだった。

常悟朗と付き合い始めたクラスメートの名前は、仲丸十希子といった。休日、2人で隣町のショッピングモールへとバスで出かける際、満員の車内で常悟朗はあれこれと思考を巡らせた。誰が押したのか分からないけれど、常悟朗の近くに座る2人のうちのどちらかが次のバス停で降りる。どちらが降りるのか推理してさりげなくその席のそばに仲丸を待機させる。目の前に空席が出きた仲丸はラッキーと笑った。

次のコラムは瓜野が書くことになっている。どのニュースを取り上げるか悩む瓜野に、氷谷が参考にとファイルを渡してきた。中身は木良市内の別の場所で起きた2件のボヤ騒ぎを書いた新聞の切り抜きだった。また新聞には載らなかったが、2件の前に園芸部が使っている資材置き場でも刈った草が焼かれるという事件が起きていたと氷谷が付け加える。ボヤが起きた日は違うが連続放火だと考えた瓜野はこのネタを追うことに決め、氷谷とともに現場を見て回ることにした。氷谷と待ち合わせた土曜日、また放火があったと教えられる。これで10月から1月にかけて毎月1回ボヤ騒ぎが起きたことになる。4つの放火の共通点を見つけ出し記事にしようと瓜野は決めた。ひととおり現場を回り、それらが木良市の西側に集中していることに気が付いた瓜野は、ある思い付きが頭に浮かんだ。

土曜日の朝、散歩に出かけた常悟朗は野次馬がたかっているのを目にし近づいてみると、見覚えのある車が黒焦げになっているのを見た。夏休み、小佐内ゆきを拉致したあと放置されている車に似ている気がする。ゆきとは事件以降は交流も途絶えているので事情は分からない。健吾から誘拐事件時に撮った写真を送ってもらい拉致に使った車に間違いないことを確認した常悟朗は、思わず唸ってしまった。あの事件はすでに終わったはずだった。

第3章 とまどう春

2月の月報船戸に、ボヤ騒ぎを取り上げ火の用心を促す瓜野のコラムが載った。その中にさりげなく次にボヤが起きそうな地域を紛れ込ませた。数日後瓜野の予言通りの地域でボヤ騒ぎが起きた。誇らしい気持ちで月報船戸と新聞記事を並べてゆきに読ませると、1回符号しただけでは分からないと言われてしまう。そして1か月後、再び瓜野のコラム通りの場所でボヤが起きた。連れていかれたカフェでクレームブリュレを食べながら、ゆきは「たいへんよくできました」と年上ぶった褒め方をしてくれた。

2回ボヤが起きる場所を当てたことで月報船戸に反応する生徒もいた一方、瓜野は部長の健吾とともに生徒指導室に呼び出され、根拠のない記事を書いているとほとんど言いがかりのような内容で叱られる。健吾の対応でその場は収まったものの、健吾からは次のコラムで根拠のある記事=火事が起きる場所が分かるというネタ明かしをするよう言いつけられる。話を聞いた氷谷は、ネタを明かさなければもう少しこの事件を引っ張れるのにもったいないと言いつつも、瓜野にネタ明かしの記事と今まで通りの記事の2種類を念のため用意しておくようアドバイスする。

春休み、瓜野はゆきとのデートでいつもスイーツの美味しいお店に連れていかれる。そこでマロングラッセの作り方を聞く。何度も何度も栗をシロップに漬けることで皮だけでなく栗自体も甘くなってしまうらしい。ゆきは、瓜野が自分のシロップなのだと冗談のように続けると、ある新聞の切り抜きを差し出し、これ以上は何もしない方がいいと告げ店を出て行った。手元に残った記事には、瓜野と健吾を叱り飛ばした生徒指導部の教師が転任するという内容が書かれていた。文句を言う人間が消え、瓜野はタネ明かしをしない普通のコラムを載せた。

常悟朗は仲丸とのデートの最中、一人暮らしをしている彼女のお兄さんが窓を割られて強盗に入られたにもかかわらず、何も盗られなかったという話を聞く。仲丸が結論を言う前に事件の真相が分かってしまった常悟朗は、つい彼女より先に答えを口に出してしまう。小市民になるつもりだったのに失敗してしまったが、何とかその場をごまかしデートを続行させた。

コラムでタネ明かしをしなかったことを咎められ、瓜野は新聞部にだけは自分が気づいた連続放火事件の共通点を明かすことにした。それは月に1回、金曜日の夜に木良市の防災計画の「分署リスト」に載っている分署が管轄する地域が、順番に放火されているというものだった。健吾はタネ明かしコラムが載った場合、記事通りの模倣犯が出た可能性を口にし、タネを明かさず通常のコラムを載せた瓜野の判断が正しかったことを認める。そして瓜野が誰にも明かしていない、模倣犯と犯人を区別するもう一つの共通点を掴んでいることを知り、受験を理由に自分は新聞部を引退すると宣言した。新しい部長には、新2年生になる瓜野が就任した。

部長になったことを喜んでくれるゆきに、瓜野はこのまま連続放火犯を追うと言う。だがゆきは頑張る人は嫌いじゃないけど、小市民が好きなので何もしない人がいいと返す。ゆきの言葉に余計奮起してしまった瓜野は、最高にいいところを見せると宣言した勢いでゆきにキスをした。つもりが、彼女の差し出したレシートに阻まれた。瓜野の手から逃れたゆきは、今までに見せたことのない晴れやかな笑顔を浮かべると、だったら楽しみにしていると言い残しスカートを翻して去っていった。

新聞部を引退したという健吾に呼び出された常悟朗は、瓜野が書く連続放火事件のコラムにはゆきが関わっていることを示唆される。何のために…かは常悟朗には分からない。放火はゆきのやり方ではないが、どうしても必要だとゆきが判断したら躊躇いなくやるに違いない。ゆきと瓜野の関係を尋ねる常悟朗に、健吾は情報通のクラスメート・吉口を紹介する。吉口は、瓜野とゆきは付き合っていると言った後、常悟朗の彼女・仲丸が二股をかけている上に別の本命がいることも教えてくれた。常悟朗にとっては、必要のない情報だった。

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夏休みの事件以降、常悟朗とゆきの互恵関係は完全に切れてしまったようで、いともあっさりと別々の相手と付き合い始めています。が、どちらも熱量の乏しい付き合いのように見受けられます。高校生なのに冷めてますね。

下巻に続きます。