米澤穂信「小市民」シリーズ第2弾『夏期限定トロピカルパフェ事件』あらすじとネタバレ感想

米澤穂信さんの「夏期限定トロピカルパフェ事件」のあらすじと感想をまとめました。

前回は高校入学して間もない頃でしたが、今回は時間が経過し、高校2年生の夏休みに起こった事件の話でした。

前回に引き続き主人公は小鳩常悟朗、事件の中心は小佐内ゆきという構図のようです。

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「夏期限定トロピカルパフェ事件」書籍概要

小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?待望のシリーズ第二弾。「BOOK」データベースより

  • 夏期限定トロピカルパフェ事件(2006年4月/創元推理文庫)

 

自分たちの本性を隠し「小市民」を目指して互恵関係を結んでいる小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、「春期限定いちごタルト事件」で結果的に逮捕者が数人出る事件に関わってしまった。

それ以降の1年余りを大人しく過ごしてきた高校2年の夏、常悟朗は夜祭で賑わう界隈を散歩していたところ、小佐内ゆきに出会った。彼女は顔を合わせたくない人がいるらしく、常悟朗を盾にして歩く。甘いもの好きのゆきは綿菓子を食べながら、この夏休みには素敵なことが起きる予感がしているとにっこりと笑った。

シャルロットだけはぼくのもの

夏休み初日、常悟朗は家にやってきたゆきからお手製の地図を渡される。「小佐内スイーツセレクション・夏」と銘打ったお菓子屋さんの場所を記した地図と、ゆきが選定したベスト10スイーツや選外の注目スイーツを一覧でまとめた紙だった。ゆきは、これが自分の夏の運命を左右するものだといい、常悟朗にベスト10に入ったスイーツをコンプリートするのに付き合ってほしいと頼む。

翌日、10位の店に一緒に行くはずのゆきからメールが届きおつかいを頼まれた。その店からマンゴープリンを2つとシャルロットのグレープフルーツのせを4つ買ってきてほしいというものだった。マンゴープリンは買えたものの、シャルロットは3つしか残っていなかった。マンゴープリン2つとシャルロット3つを持ち、常悟朗はゆきのマンションへと向かった。

ケーキを食べる段になってゆきに電話がかかってきた。しばらく待っていたものの、朝から何も食べていなかった常悟朗は、シャルロットを口にする。とんでもなく美味しい代物だった。感動に打ち震えながら食べ終えたあと、常悟朗は思いついた。自分がもう1る食べるために、シャルロットは初めから2つしかなかったことにしよう。

コーヒーとともに食べてしまった1つめのシャルロットの痕跡を消した常悟朗だった。ミスもなく、戻ってきたゆきに対してもフォローは適切だったが、あることがきっかけでバレてしまった。敗北の代償として、常悟朗はランキング1位までのお店を全部まわる約束をした。

シェイク・ハーフ

ゆきからメールが届いた。ちょっとした謎解きをすると7位のスイーツ店であることが分かる。待ち合わせ時間までの間、小腹を収めるためにハンバーガーショップへと入った常悟朗は、ゆきの言動に違和感を抱いていた。彼女とは互恵関係を結んで小市民らしく振舞っているものの、それは学校内に限定したもので夏休み期間中まで一緒に行動する必要はないからだ。

ハンバーガーショップには堂島健吾がいた。同じ小学校だった健吾は、船戸高校でゆき以外で常悟朗の本性を知っている人物だった。健吾は調べ物をしているらしく窓の外の動きを見張っていた。同級生の川俣さなえが昔の仲間に誘われて薬物乱用グループに引き込まれた。何とか縁を切らせる方法はないかとさなえの妹に頼まれ、健吾はグループの状況を探っているとのことだった。常悟朗とゆきの出身中学で、睡眠薬や風邪薬の意一気飲みで遊んでいた女子グループが補導されるという事件が起きていた。似たような話だが一応健吾の耳に入れておこうと思った時、健吾が席を立った。窓の外で動きがあったらしく、しばらくこの店に留まり何かあった場合は連絡してほしいとメモを残して飛び出していった。走り書きのメモには「半」とだけ書かれているように見える。

ぽかんとする常悟朗の後ろにゆきが立っていた。メモの謎を解きかけたものの小市民としては健吾に電話すれば解決すると行動を起こしたものの、健吾は電話に出なかった。ゆきと会話を進めながら、自然と常悟朗は健吾の残していったメッセージの謎を解いていた。半は、電話番号でも人の名前の一部でもなく、場所を示していた。

謎を解いた常悟朗に対し、ゆきは7位のスイーツは自分が奢ると嬉しそうに笑った。

激辛大盛

健吾からタンメンの激辛大盛を奢ると呼びだされた常悟朗は、ハンバーガーショップのあとのいきさつを聞かされた。川俣さなえがいるグループは、常悟朗の出身中学で起きた補導事件の女子グループと一致していた。

リーダーの石和馳美は、補導に関してチクったのはさなえではないかと疑い殴りかかってきたらしい。黙ってグループを抜けると殺されるかもしれないと、さなえは恐怖心からグループから抜けられずにいる。二度目の説得を行った健吾は、さなえから邪魔だと言われた。抜けろと言うのは簡単だが、その後24時間体制でさなえを守れるわけもない。自分のやっていることは偽善だと自嘲気味に言う健吾の泣き言を、常悟朗は聞いた。

おいで、キャンディーをあげる

「小佐内スイーツセレクション・夏」の第3位のむらまつやのりんごあめは、年に1度の三夜通りまつりの時のみ買うことができる限定品だった。午後1時に待ち合わせ場所であるゆきのマンションへ行った常悟朗だったが、応対した母親にゆきは外出中だと言われ、しばらく室内で待つことになった。約束の1時を30分ほど過ぎた頃、家の固定電話に電話がかかり母親が出た。身代金500万円と引き換えにゆきを無事に戻すという誘拐の電話だった。

いたずらだと言ったものの、母親は父親に連絡した後110通報した。常悟朗はマンションを出た。警察の範疇で自分にはどうしようもない出来事だと頭では分かっているものの、胸中では素晴らしい事件に出会えたと常悟朗の本性が顔を覗かせ高揚している。そんな時、ゆきからメールが入った。りんごあめ4つとカヌレを1つ買ってきてほしいという内容だった。すぐにゆきに電話を掛けたものの電源が切られているのか繋がらなかった。

メールはゆきからのSOSだと受け止めた常悟朗は、誘拐事件は一人では荷が重いと健吾に協力要請しゆきからのメールの謎を解くことにした。メールは誘拐されたゆきが連れ込まれたと思われる場所で、「小佐内スイーツセレクション・夏」の地図を使って割り出すことができた。健吾と2人で現場へと赴いた常悟朗は、女子グループに囲まれて縛られているゆきの姿を確認し、警察に通報した。間一髪のところでゆきは助け出され、リーダー格の石和は誘拐の罪で逮捕された。

無事に救出され自宅へと帰るゆきに、好きな物を買って持って行ってあげると言う常悟朗に対し、ゆきはランキング2位のピーチパイをリクエストした。

スィート・メモリー

2人でランキング1位の夏期限定トロピカルパフェを食べながら、常悟朗は誘拐事件について話をしていた。今回の誘拐はおかしいことがたくさんあった。りんごあめを食べに行くために1時に待ち合わせたのにその前に外出したこと、いつも外出時には変装するゆきが今回に限って普通の恰好で出かけたこと。10位から順番に店を回っていって次は3位のりんごあめの予定だったのに、誘拐事件後は2位のピーチパイを食べたがったこと。つまりゆきは、1年に1度しかないりんごあめが食べられる日に自分の身に何かが起きることを知っていて、誘拐される前に一人で先に食べていたのではないかと常悟朗は推理した。

ゆきは自分が誘拐されることを知っていて救出役に常悟朗を選んだ。夏休みにわざわざ常悟朗を誘ってスイーツ巡りをしたのは、「SOSのメッセージ=地図」を常悟朗の中に強く印象づけるためではないかと考える。内通者は川俣さなえ、そう考えた常悟朗の前にさなえが現れ、ゆきにテープレコーダーを渡して消えていった。

ゆきのやったことは、常悟朗の推理のもっと上をいくものだった。ゆきは小市民を装っているものの「復讐」を何より愛していた。中学時代、ゆきはさなえを助けてグループから抜けさせていた。だがさなえは再び仲間に引き入れられた。さなえはもう一度自分を助けないと補導の原因となったゆきを石和に引き渡すと脅してくる。ゆきは、石和が自分に手を出せなくなるよう「誘拐の罪で逮捕」させるように仕組んだ。身代金を要求する電話は事前にさなえが吹き込んだテープを流しただけだった。石和はゆきを拉致したものの誘拐はしていなかった。つまり石和は、身に覚えのない罪をかぶせられ少年院行きになった。

冤罪はだめだという常悟朗に対し、ゆきは小市民になるためにお互いを利用し合うという互助関係の解消を口にした。石和の件を始末でき、ちょうどいい機会だとゆきは言い、常悟朗を残して店を出て行った。

 

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いくつもの短編が時系列で並んでいるのかと思っていたら、最初からすべてが1つの事件でした。初登場時はスイーツ好きの大人しい女の子というイメージだった小佐内ゆきですが、復讐のためには人を陥れることに何ら罪悪感を持っていないらしいということが分かってきました。中学時代、どんな暴れ方をしたのか気になります。